「提言!これからの日本観光」 JRバス第1号(車)に思う
2022年1月19日(水) 配信
旧国鉄の経営改革によって1987年に発足したJR各社は、いずれもそのグループ企業で国鉄バスを承継して「JRバス」を運行している。高速道路バスを中心に営業する。
旧国鉄が鉄道経営と併せて、国直営のバスの運行を始めたのは約90余年前の1930(昭和5)年のことであった。当時国内のバスは都市内、地方路線共に公民営中心で民業圧迫の声もあったとかで、鉄道路線を先行、代行、短絡する場合に限って運行するなど限定的な役割を果たすものに限って営業を始めた。
即ち建設予定の鉄道路線完成までの間、バスで代行する場合、道路の開設によって鉄道路線が迂回していたところをバスで短絡でき旅行時間の短縮できる区間ないしは、鉄道駅へのアクセス効果の高い路線に限って運行したのである。
その第1号路線として「省営乗合自動車」のブランドで東海道線「岡崎駅」(愛知県岡崎市)と中央線「多治見駅」(岐阜県多治見市)・「高蔵寺駅」(愛知県春日井市)までの約50㌔を同年、国産の座席数20(荷物室付き)の大型バス7台で開業した。同区間は鉄道敷設法による鉄道建設予定線で、その開通まで鉄道とほぼ同じサービスを提供するとした。
即ち鉄道を代替するバスであることを明らかにするための「停留所」は「駅」と呼び、主な「駅」には鉄道並みの「駅舎」も設け「駅員」も配置。乗車券の発売(全国各駅へ)荷物・貨物の取り扱いも鉄道と同じように行った。手小荷物はバス特設の荷物室で、貨物はトラックで最寄り鉄道駅まで輸送し、貨車に積み替え全国各駅に継送した。
また市販の時刻表では鉄道線と同じ詳細な全便の時刻を、有人駅を中心に掲載。地図上でもほかのバスとは異なり鉄道並みの太線で表示するなど鉄道との一体性を強調した。同線の当時を知る人の話では「道路を走る鉄道ができたと感激した」という。
バスも大型で乗り心地も良く列車と同じようにダイヤ通り正確な運行をし、前照灯の光度も高く「神々しい感じさえした」など概して好評で営業成績もますまずだった由である。
この国鉄(JR)バス第1号路線を走った1台は、東京にあった鉄道博物館で保管されていたがJR東海リニア・鉄道館(愛知県名古屋市)が開館したので、同館に移管いわば里帰りを果たし鉄道代行バスとして同館の主要展示物となっている。
このバスがこのほど、標準型バスとして初めて国の「重要文化財」に指定されることとなった。乗客数如何によるが、鉄道と同じ利用条件(運賃・ダイヤ・販売体制など)であれば、バスがより利用しやすい(戸口から戸口まで)効率的な輸送システムであることを実証したことも今回の指定理由のように思われる。
日本商工会議所 観光専門委員会 委員