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「街のデッサン(251)」 一匹の狼のごとく生きる、散逸行動とブラウン運動

2022年3月5日(土) 配信

ドッグランの100匹の犬と、1匹の狼

 なかなか外出が自由にできない。講演やフォーラムの打ち合わせがたくさんあるのに、関係者にも会えず延期になる。自閉と孤立が求められる社会が続いている。そんなときに、私たちはどう日常の行動を生み出したらよいのだろうか。

 私が思い当たるのは、荒野に生きる(現代都市も荒野そのものかもしれない)一匹の狼である。群れを作って集団で暮らす狼たちもいるが、とくに若い狼たちは1匹で生きていくことを強いられる。彼らは普段、原野に生息する弱小な動物や他の強者の食い残しを命の糧にしているが、ときに自分より強く大きな動物を襲うときには孤立した狼でも連携して群れを作る。

 群れには2つのパターンがあるようだ。渡り鳥のように大きな集団を作って自然の摂理に沿った動態で移動していく本能モデル。私たちは海の中を回遊する魚群にも同じように、何か強力な中央制御が働いている意志を持つ集合のように感じる。この群れの動態の秘密を解いたのは、カルフォルニアでコンピューターグラフィックスを専門にしていたグレイグ・レイノルズであった。彼はアニメの中の動物たちに自然の動きを与えるために、カラスの集団をつぶさに研究した。個の動きを見ていると中央制御の意図は読み取れず、個々の鳥たちが3つの規則に従順に従っていると捉えた。①各々が数多くいる方に飛んでいく②各々が飛ぶ速さを合わせようとする③個体が近付きすぎたら離れようとする――実にシンプルな本能だ。

 一方で狼たちが獲物を捕るために明確な意思を持って連携するワーク(仕事)モデル。このモデルを、哲学者・ジル・ドゥルーズは「群れの数量の乏しさ、散逸状態、可変的な距離、固定的全体化や階層性の不可能性、多様な方向のブラウン運動」と分析する。鍵は散逸構造にある。群れの中に活動状態の非平衡が生まれるが、その非平衡性が社会エネルギー創出の“場”となる。すなわち、彼ら孤独な狼たちでも、エネルギーを群生的に社会還流させているのだ。

 これからは、DX(デジタル・トランスフォーメンション)で人々が出会わずに仕事を遂行できる一方、リアルな狼の群れのようにスモールビジネスやマニュファクトリーを自己組織化させ、地域にいくつもの生成変化(類的増殖)を生み出していくメタファーを読み取れる。商店街のカフェなどを舞台に、狼たちのブラウン運動がアジールを生みだす。そして、その意思を持つノマドたちが世界中を遊牧し、旅を重ねて「知」の散逸行動を定常化していくのではないか。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

 

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