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「芦原(あわら)温泉女将の会」に学ぶ、楽しく実りある女将会継続のコツ

全員で利酒師を取得。LINEで励ましあった
全員で利酒師を取得。LINEで励ましあった

 旅館の女将さんが結成する女将会は各地にある。だが、発足時の活気を保ち続けるのは難しいものだ。そんななか、会員の女将たちがすごぶる仲良く、継続してイベントが行われている女将会がある。福井県の「芦原温泉 女将の会」だ。全14旅館のうち、女将のいる13旅館・13人が加盟(表)。規模は小ぶりだが、ホームページの「活動報告」を見ると毎年10以上の魅力的なイベントを開催しており、実行力や団結力の強さを感じさせる。観光地に物的な豊かさを求める時代は去りつつあり、これからは大らかさ、優しさ、統一感、センス、笑顔など、心の豊かさがより求められていくだろう。つまり、「競争」ではなく「共創」の時代なのだ。そこに生きる人々が一つのチームとして土地の魅力を育み、輝かせることが生き残りのカギとなろう。そこで、互いに共創する風潮をどう育んだのか、芦原温泉女将の会にそのヒントを学びたい。 
〈取材=ジャーナリスト・瀬戸川礼子〉

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危機で強まった団結力

 芦原温泉は130年の歴史を有するが、長い間、女将会はなく、道で会えば会釈をする程度だった。それが1992年のある日、1人が『一度、みんなでご飯を食べよう』と声をかけたことで、初めて女将たちが集まることとなった。

 女将の会会長の伊藤昌代さん(まつや千千)は語る。「全員が『すぐに帰ろう』と思って参加しました。お客さま以上に、家族に対する遠慮がありますからね」。ほかの女将も一様に頷く。

 ところが、宿は違っても同じ女将同士。身の上話に花が咲き、大いに盛り上がった。「お昼に冷酒を初めて飲みました(笑)」、「『そうそう』と頷いてくれる人がいることが本当にうれしかった」。意気投合し、2カ月に1回集まること、当番制にすることなどを決めた。

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 それから5年ほど、「お遊び的な楽しい食事会」として続いた女将会は、97年のナホトカ号重油事故をきっかけに次のステップへと進む。温泉地は1年も風評被害を受け、海は「復活は難しい」と言われるほど汚れていたが、人々の助けによって美しく蘇った。

 「機械では取り切れない重油を、たくさんの方々が手で取り除いてくれました。そのお礼に、女将の会のみんなで大阪のテレビやラジオに出演し、『ありがとうございます。芦原は元気です』と伝えに行ったのです」。これが、みなで着物を着、外で公式に活動する第一歩となった。「中で宿を守るのが女将」という風習からの脱皮だ。食事会がお遊び的だったとしても、定期的に顔を合わせていたことで、みなの心がまとまりやすかった面も大いにあっただろう。

 逆境で得た団結力を生かし、忘新年会の誘致を促したり、県知事への公営宿泊施設の建設見直しの陳情など、活動に弾みをつけていった。

 もともと福井県は全国で共働き率はトップクラス。女性が働くことに抵抗のない県だ。しかし、「姑の悪口を言ってすっきりしてくればいいよ」と、義父が笑って送り出してくれる人もいれば、「嫁という字のごとく、女は家にいるものと思われ、外出は勇気が要りました」という人もいる。欠席しがちな人を責めることなく、それぞれの立場を理解しながら活動を続けた。

 心置きなく話ができるよう、食事会で集うレストランは温泉街から少し離れた店を選ぶ。1回1万円の会費は「大事な場だから高いとは思わない」、「いいものをいただくことも貴重な勉強」ととらえる。時間は午前11時半~午後3時まで。宿に戻れば「何もなかったかのように」、働く。

女将・主人らが仮装する節分おばけ
女将・主人らが仮装する節分おばけ

全施設220人で合同セミナー

 近年の取り組みを少し見てみよう。13年5月には、13人全員が一度に「利酒師」の資格を取得した。LINEで励まし合いながら、深夜に睡眠時間を削って学び、蔵元見学会も催した。全員で取得は全国的に珍しく、メディアにも取り上げられた。現在は各旅館に「利き酒セット」がメニューとして用意されている。

 今年2月には「第3回 節分おばけ」を開催。仮装で魔除けする京都の節分おばけを、関西の奥座敷と言われる芦原温泉に取り入れたもので、なんと女将や主人、市長に至るまで、ギャルや小坊主などユニークな扮装で宿泊客を楽しませる。都市部の大学などに通う後継者にもこの日は帰郷をうながし、親世代の仲の良さを目に焼き付け、次世代も仲良く共創していってほしいと願う。

 同3月には「おもてなし向上セミナー」を開催。13女将とそのスタッフ、総勢220人が2日間(午前10時半~午後3時)にわたり、合同でサービスの原点や、お金をかけずに顧客が笑顔になるアイデアなどを考えた。異なる宿で働く人同士が数人ずつ同じテーブルで学ぶのだ。女将だけではなくスタッフも相互関係をつくれるセミナーは、温泉地全体のまとまりにも一役買ったのではなかろうか。

心の元気がまちの元気をつくる

 すべての女将会には2つの目的があると思う。「心の元気」と「まちの元気」だ。そして、前者がかなってこそ、後者がかなう。「子育や仕事との両立のこと、お客さまや社員のこと、共通の課題を抱える同士なんです」、「誰にも言えない愚痴が言える唯一の場所」、「女子会ですよね。ストレス発散です(笑)」、「女将業は時間が不規則ですから、同級生の集まりにはまず行けません。友と疎遠になるなか、女将会は心の拠り所です」、「大きい宿の女将にはお手伝いさんがいると思っていましたが、小さい宿の私と同じで、おぶ紐で子供をくくって家事をしたと聞き、心が軽くなりました」

 人間のほとんどの悩みは「人との比較」が生む。「自分だけじゃない」と思えることは想像以上に大きな力になろう。「それで解決するわけじゃないけれど、分かってくれているだけでもいいんですよ」

 顧客アンケートに痛烈な批判が書かれて悩んでいた人は、「いいのよ、いいのよ、くしゃくしゃポイよ」と、ユーモアたっぷりに先輩女将に励まされ、共に笑って、「またがんばろう」と吹っ切れたそうだ。「心でハグし合っているんです」と伊藤会長。こうした心の元気がかさ上げされて、まちの元気も高まるのだろう。女将の会ホームページ上の「若女将のひとりごと」にはくすりと笑える裏話が満載だ。覗いてみてほしい。

情報ネットワークを駆使する

 「以前は個別にがんばっていましたが、いまは『芦原温泉全体で有名になろう』と、チームワークを大事にしています」と、みなが言う。

 かつて33軒あった会員宿は、現在13軒に。「これ以上1軒も減らさない」との思いを抱く。「ある程度、温泉地の規模がないとイベント開催も難しくなります。幸い、特徴のある宿がしっかり残っていますから、みなでみなを守り、高めたい」

 ネット活用も一役買っている。全女将がメーリングリストを使え、毎日女将の誰かとLINEをする人も多い。常に心の距離が近いから、例会でも話が早いのだ。

 2000年から始めたホームページは現在も頻繁に更新されている。制作・管理は立尾清美さん(白和荘)。「最初はみんな、レスポンスという言葉も分からないので(笑)、一から教えました。世の中は進展している。私たちも進展しよう、と」

 ベテラン女将も携帯からスマホに買い替えた。全国的に見て、女将さんは情報ネットワークに弱い人が多い気がするのだが、芦原温泉女将の会は例外だ。

「私たち女将の会では、『年だからできない』は通用しません(笑)。そこはしっかり教え合う。幸い、先輩女将は『教えてくれてありがとう』と言ってくれるので、その素直な姿に若い女将たちは尊敬を抱き、よりよい信頼関係にもつながっているんです」

 数々の取り組みは、来春に控える北陸新幹線開業に向けた準備にもなっている。

 観光とは光を観に行くこと。喜々として活動する芦原温泉女将の会の存在に、観光地としての未来を垣間見た気がした。

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