「観光革命」地球規模の構造的変化(245) 幸福度と観光
2022年4月2日(土) 配信
日本ではあまり知られていないが、3月20日(日)は国際連合が定めた「国際幸福の日」である。国連は2012年の総会で満場一致で「国際幸福の日」を定めた。目的は幸福やウェルビーイングを啓発・促進することだ。
併せて、同年から国連の「持続可能な開発ソリューションネットワーク」が毎年「世界幸福度ランキング」を公表している。それは世界の約150カ国を対象に行う調査に基づいている。具体的には、①1人当たり国内総生産②社会保障制度などの社会的支援③健康寿命④人生の自由度⑤他者への寛容度⑥国への信頼度――について、対象国・地域の数千人を対象に行う面接調査に基づいている。
22年の世界幸福度ランキングのベスト10は、①フィンランド②デンマーク③アイスランド④スイス⑤オランダ⑥ルクセンブルグ⑦スウェーデン⑧ノルウェー⑨イスラエル⑩ニュージーランド――。日本は54位で、先進諸国の中で最下位。
フィンランドは5年連続で第1位を占めている。1人当たり国内総生産は世界13位、消費税は24%で世界6位であるが、税金が社会保障として還元され、政治の透明性や富の再分配が実現されていると共に、子育て支援が充実し、個々人が自由に進路を選べる環境が整っている。
日本は経済的に豊かで社会保障も充実しているうえに、健康寿命も高く、治安が良くて暮らし易いはずであるが、残念ながら主観的な幸福度は低い。理由は「人生の自由度」と「他者への寛容さ」にある。日本では学業や就業において選択の幅が限られており、ジェンダーギャップ(男女格差)でも先進諸国で最下位。
人の幸福度に最も影響を与えるのは「温かな人間関係」であり、自分と意見が違う人や立場が異なる人に対して、どれだけ理解を示すことができるかという「他者への寛容さ」が重要になる。
フィンランドではライフスタイルそのものが魅力的な観光資源になり、世界中から観光客を惹きつけている。フィンランドではライフスタイルに根ざしたサウナや、さまざまなデザイン分野に力点を置いた観光振興が行われている。日本でも「観光の量的拡大」ではなく、各地域における暮らしに力点を置いた「観光の質的向上」を重視する観光振興を行うべきであろう。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。
フィンランドでは自然享受権というのがあるそうです。日本とは「そもそも」が違うと感じます。