国産畳が急減 ― 天然い草の畳表か 人工の化学表か?
「畳ワールドin東京」という珍しいイベントが東京・池袋で開かれたので、メモ帳を持って取材に行ってみた。今まで知らなかったが、春の4月29日と秋の9月24日は、年2回の「畳の日」であるとのことだ。春は、畳の原材料である「い草」が田園を緑一面に染めて育つ春の記念日として、秋は冬の衣替えを前に、大掃除を推奨する日として設定されている。
国内における畳表の年間需要枚数は、1993年には4500万枚あったものが、20年後の2012年には1490万枚と、3分の1まで減少している。この状況に危機感を抱く全国畳産業振興会が「国産畳をおもいっきり満喫してもらおう」と東京でイベントを開いた。
畳表の材料となる「い草」の栽培も大きく変動している。1955年には岡山県が54・4%でシェア1位を誇った。2位は熊本県の12・5%だったが、2013年には熊本県が全国の96・5%を占め、2位は福岡県の1・4%、3位は沖縄県の1・1%。国内では熊本県が、い草の栽培の圧倒的多数を占めている。畳表の国内生産量の減少とともに、自給率も下がっている。1996年には自給率が70%だったが、近年は輸入の割合が増え国内の自給率は20%強で推移している。
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“い草博士”の異名を持つ北九州市立大学の森田洋教授は、い草の良さとして「色」「足元」「香り」の3つをあげた。い草の黄緑色は視覚的にも安心感を与え、畳の上では靴を脱ぐことにより体感温度を下げる。さらに、森林の香りであるフィトンチッドが多く含まれることも、リラックス効果を増幅させるという。
このほかにも、畳にはフローリングなどに比べて「吸音性」や「弾力性」が高いことから、柔らかい空間を作ることができる。「吸湿性」や「放湿性」にも優れており、夏は涼しく、冬は暖かい。「抗菌性」も高いと言われる。また、福岡県の学習塾で畳の教室を作ったところ、従来の教室に比べて子供たちの「集中力の持続」に高い効果が表れたことも紹介した。
一方、カビやダニなどを防ぐ畳表のメンテナンスには、清掃と換気が一番効果的であり、森田教授は「畳の張替え時期は3―5年程度」と話す。
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最近は、天然のい草で編んだものではない、ビニールや合成樹脂など新素材で加工した「化学表」を使用するものも旅館などで多く見られるようになった。色褪せや汚れ、耐久性も強く、清掃も楽であるといったメリットがあるようだ。施設にとっては、機能性を優先させた化学表を選ぶか、それとも天然のい草の畳表を選ぶか。それぞれに一長一短があり、施設の経営哲学に関わる問題である。
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今はさまざまなところで「本物志向」が強くなっているのも事実だ。「高級旅館に泊まったのに、畳が偽物でガッカリした」という声を耳にすることもある。化学表には、どうしても「つくりもの」感が強く支配してしまう。それを嫌い、客室には天然の素材をできるだけ多く使用し、素肌と触れ合う心地よさと素材の持つ温かみで、リラックスできる空間づくりを最優先する宿の経営者もいる。
森林に囲まれた客室の窓を開けて、吹き抜ける風の匂いを感じながら深呼吸したときに、新しい天然い草の畳の香りが混じり合ったら、少し得した気分になる。
(編集長・増田 剛)