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「観光立国=訪日外国人拡大」の図式 ― 目先の数字よりも現場の支援を

2014年9月21日
編集部

 2003年に国が「観光立国」推進を掲げて10年以上が立つ。その間、東日本大震災やリーマン・ショック、近隣諸国との関係悪化など、さまざまなマイナス要因はあったが、訪日外客数は遅ればせながら1千万人の大台に乗った。観光予算も民主党への政権交代で倍増し、その後も増加傾向にあり、2015年度予算の概算要求では、14年度予算比で84%増の180億円を要求した。予算の柱となる「訪日2千万人時代に向けたインバウンド政策の推進」には162億円を求めている。

 一目瞭然だが、観光予算のほぼ9割がインバウンド関係ということである。

 観光振興や観光立国に向けて、インバウンド促進は大切である。人口減少時代に入り、国内旅行人数が減少する分を外国人旅行者に補ってもらうという考え方は理に叶っている。

 しかし、気になるのは、「観光予算=訪日外国人促進事業予算」、「観光立国=訪日外国人の拡大」という図式ができあがっていることだ。

 訪日外国人観光客が増え続けることは、歓迎すべきことである。「訪日外国人が観光しやすい環境を整備することが、日本人が観光しやすい環境を作る」という考え方も正論だ。

 今や東京だけでなく、地方の人気観光地でも外国人旅行者を多く目にするようになったが、日本の観光地を旅行する母体は日本人である。でも、日本人の旅行者は増えていない。国内旅行の滞在数も伸びていない。原因は何だろうか。

 例えば、休暇制度改革も頓挫したままという印象だ。いまだに夏期休暇がお盆の時期の3日程度という中小企業もたくさんある。これでは、どこかに旅行しようと思っても、道路は渋滞するし、宿泊施設も取れない。「日本人は夏休みも短く、有給休暇も取れないから、外国人観光客を呼んできて観光地を潤そう」では、どこかおかしくないだろうか。穿った見方をすれば、国内旅行の活性化や隆盛がどうしても上手くいかないから、誰の目にもわかりやすく、比較的順調な訪日外国人の増大に目を向けさせようとしているのではないかと思うのである。

 また、旅館は地域の雇用に貢献し、観光客を受け入れ、地元の食材などを使うことで経済を回し、地域産業に大きな役割を果たす。しかし、今は円安が進み、現場の旅館やホテルは食材費や燃料費も高騰して、経営を圧迫している。個人旅行者にとってもガソリン代の高騰や、円安による海外旅行の割高など弊害も出ている。一方、訪日外国人旅行には追い風が吹いている。行政側としては、目標数値に近づけるため、円安は歓迎だろう。だが、目先の数字よりも、観光の現場に配慮し、支援するのが観光庁の存在意義だ。

 地熱開発についても、強力に推進する経済産業省と、温泉資源の保護の立場にある環境省だけの問題ではなく、国内旅行で圧倒的な人気を持つ温泉旅行を支える「温泉保護」にも、観光庁は積極的に関与していき、観光振興の視点から明確なメッセージを発信していくべきではないかと感じる。

 国は今さらながら、地方創生へ動き出した。多くの観光関係者は観光庁に期待をしている。民間の努力では及ばぬ国内旅行振興に向けた枠組み作りや、旅行しやすい税制改革などにも、本腰を入れて立ち向かってほしい。

(編集長・増田 剛)

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