「観光革命」地球規模の構造的変化(247) フラワーソンを楽しもう
2022年6月4日(土) 配信
45年前にある禅僧の講話を新聞で知って、人生を考え直す機会があった。禅僧は「人知れず野辺に咲く、名も知らぬ1輪の花に心を奪われる時、人間は生きているのです」と講じた。当時32歳の私は道端の花を踏みにじることはあっても、花に心を奪われることがなかった。要するに私は「生きていない」ことを知ってショックを受けた。それ以来、野辺に咲く花にも目が向くようになった。
今年6月に北海道で「フラワーソン」と呼ばれるイベントが開催される。フラワーソンは「フラワー・ウォッチング・マラソン」の略語。世界各地で「バードソン」というイベントが盛んに行われている。バードソンは「バード・ウォッチング・マラソン」の略で、一定時間内に何種類の野生の鳥を確認できるかを競い、確認した鳥の種類数に応じて寄附を行い、野鳥保護に役立てるイベントだ。
フラワーソンはバードソンにヒントを得て、北海道で1997年から始められた日本発祥のイベント。北海道大学名誉教授の辻井達一氏の提唱で、北海道新聞野生生物基金設立5周年を記念してスタートし、その後も北海道新聞社が主催している。
同イベントは5年毎に6月中旬の2日間を設定。全道各地で数多くの人々が参加して「どんな花が咲いているか」をグループ単位で調べるイベント。毎回フラワーソンの調査結果を詳細にまとめることによって、環境変化の実態を把握し、野生植物の保護や環境保護に貢献している。
6回目の今回は6月18日(土)、19日(日)に開催され、北海道全域を約950地区に分けて、開花している植物を調査し記録していく。前回(17年)は約3千人が参加し、確認開花種数は1122種に及ぶ。フラワーソンは全道で一斉に実施され、子供を含めて誰でも参加が可能で、身近な自然に親しみ、環境変化を知ることによって環境保護に貢献する工夫がなされている点が高く評価されている。
北海道はさまざまな花々を愛でる「フラワーツーリズム」に最も適した地域の1つだ。フラワーソンを通して北海道の野生植物の実態を調査・記録し、保護に係ることはフラワーツーリズムの振興につながっている。旅行業界もフラワーソンに参加・支援することによって、フラワーツーリズムのさらなる発展に寄与してもらいたい。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。