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【特集No.614】あぶらや燈千(長野県) 「より良く」へ常に細かく改善

2022年7月8日
編集部:増田 剛

2022年7月8日(金) 配信 

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客の強い支持を得て集客している宿の経営者と、工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏が、その人気の秘訣を探っていく対談シリーズ「いい旅館にしよう! Ⅲ」の11回目は、長野県・湯田中温泉「あぶらや燈千」社長の湯本孝之氏が登場。「より良くしたい」という強い思いから、常に細かく改善し続ける姿勢や、風俗営業免許の返納など「やめる」勇気についても内藤氏と語り合った。

【増田 剛】

 湯本:1961(昭和36)年に創業し、私は3代目になります。
 元々は油屋として、この地で菜種油や小麦などを売る雑貨店を営んでいました。そのうち商売も難しくなったため、祖父が借金をして温泉を掘り、温泉旅館業を始めました。長い歴史のある宿が多い湯田中温泉では、後発中の後発でした。
 最初は3階建ての小さな木造旅館でしたが、その後観光ブームもあって66年には5階建て鉄筋コンクリート造に建て替えています。
 団体客が主流で最も客室数が多かった時期は50室以上ありました。02年に個人客に対応するため露天風呂付客室専用の棟を新築で建てたり、大浴場や個室食事処を備えたり、5億円ほど投資して全館フルリニューアルしました。そのタイミングで「ホテルあぶらや」から「あぶらや燈千」に名称を変えました。現在は32室です。

 内藤:ご両親は個人化への変化に対して先見性があったのですね。

 湯本:鉄筋コンクリート造にしたのも早かったですし、露天風呂付客室も当時はほとんどありませんでしたので、メディアの取材もたくさん来ました。

 ――湯本さんが宿に戻ったのはいつですか。

 湯本:リニューアルしてスタートした直後です。
 私は東京の大学を卒業後、1年間ホテル学校に通いました。その後、2年ほど実際に都内のホテルで修業というかたちで勤務させていただきましたが、そのホテルが倒産していく様を見ていたことがきっかけとなり、そこから私の旅館業人生が始まりました。
 就職したホテルでは、オーナーと社員がもめていて、私が入社して1週間ほどでフロントスタッフが全員一斉に辞めてしまいました。たった1人残った社員と私で立て直しをやらなければならない状態でした。
 支配人は場外馬券場に行くし、レストランスタッフは冷蔵庫から食材を出して宴会をするなど崩れ落ちていく様を目の当たりにしました。そのような職場で2年間働いていました。

 内藤:当時、何を感じていましたか。

 湯本:ホテル学校に通ったのも「東京にもう少しいたかった」という理由で、旅館を継ぐという考えは持っていませんでした。両親からも「継いでほしい」と言われたこともなかったのですが、東京であまりにひどいホテルの環境にいたため、実家の旅館のことが心配になってきました。
 1998年に長野冬季オリンピックが開催され、周囲の旅館もリニューアルラッシュを迎えました。そのタイミングで両親は改修をしなかったので、次第に集客が難しくなってきました。売上自体はそこまで厳しくはなかったらしいのですが、「取り残された」という危機感もあり、建築費も下がった02年に大改装を行いました。

 内藤:一般的にお金が入ると、時代の流行に沿った新館を建てたり、大規模リニューアルをしたりして、そのまま手つかずになっている施設が多くあります。一方で、外壁の塗装や、ロビーの設えなど、地道に小さな部分に手を入れている施設に私は共感します。
 五輪ブームのときに改装せず、建材費が下がった時期に改修するというのは、やはり先代の嗅覚があったのかもしれませんね。

 湯本:嗅覚があったのかもしれませんし、必要に迫られてだったのかもしれません。それまで宿泊単価は1万円ちょっとだったのが、露天風呂付客室を作ったことによって、当時2万5千円レベルの客層に変化しました。
 従来の団体客と新しい露天風呂付客室の個人客も混在していましたので、ロビーでバッティングすると、「団体のチェックインが騒がしい」など、個人客からクレームも多く、個人客の専用ラウンジを作りました。

 内藤:あとから振り返るとそのような説明になりますが、それでも何も対応できない施設がほとんどです。
 例えば、個人化しているのに宴会をやめられないなど、必要に迫られていても軸足を移すのではなく、「二兎を追ってしまう」というのが一般的です。

 湯本:内藤先生の助言もあり、風俗営業許可証を返納しようとしたところ、両親に「売上が落ちる」と大反対されました。
 2年ほど経ってですが、ようやくコンパニオンを廃止し、風俗営業許可証を返納しました。

 内藤:旅館業界は風俗営業免許の不満を口にしますが、売上が減ることを考えると、足踏みして風俗営業の維持を選んでしまいます。
 しかし、あまり旅館業の方々は理解していないのですが、通常の接客を行うコンパニオンは風俗営業免許を取得する必要がなく、売上への影響がありません。

 湯本:コンパニオンを廃止したことで団体客が減り、初年度は多少売上が下がりましたが、年々とそれを高単価の顧客でカバーすることができるようになり、さらに顧客満足も高まり、本当によかったと思います。…

【全文は、本紙1874号または7月15日(金)以降日経テレコン21でお読みいただけます。】

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