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「鉄道開業150周年を契機に~寄稿シリーズ⑦」 菅建彦氏「世界遺産もある欧州山岳鉄道と保存鉄道」

2022年9月14日
編集部

2022年9月14日(水) 配信

オーストリア・ザルツブルク近郊のシャーフベルク鉄道
菅 建彦氏 公益財団法人交通協力会顧問、日本鉄道保存協会顧問

 日本の鉄道は今年開業150年を迎えるが、2025年には英国が鉄道開業200年を迎え、30年代になると欧州主要国の鉄道が相次いで開業200年を迎える。

 今ヨーロッパの中心をなす英、独、仏、ベルギーなどの国々は地形平坦のため、車窓風景が変化に乏しい。日本にないヨーロッパ鉄道の魅力は、山岳鉄道と保存鉄道であろう。

 ヨーロッパ鉄道の最高地点は標高3454㍍(日本の最高地点は小海線野辺山駅付近の標高1535㍍)、ユングフラウ鉄道(スイス)のユングフラウヨッホ駅、ここから見る氷河の眺めは素晴らしい。最急250パーミルという急勾配の狭軌鉄道で、車輪とレールの摩擦力だけでは登れないから、ラックレールと車両側の歯車(ピニオン)を噛みあわせるシュトループ式の歯軌条鉄道である。

 昔、信越線の碓氷峠で使われ今も大井川鐵道井川線が使っているアプト式と同類と思えばよい。スイスをはじめオーストリア、フランスなどアルプス沿いの国にはこの種の登山鉄道が普及しているが、国際列車が行き交う幹線にも壮大な山岳路線がある。

 ウィーンからゼメリング峠を越えて、アドリア海のトリエステ(イタリア、かつてはオーストリア領)に至る鉄道は、最初に開通したアルプス越えの鉄道で、連続する急カープと石造の高架橋が見事な景観をなし、世界遺産となっている。

 スイス東部とイタリアを結ぶ狭軌のレーティッシュ鉄道も世界遺産である。スイス中部のサン・ゴッタルド峠を経て南ドイツと北イタリアを結ぶゴッタルド鉄道は、峠の直下、標高1150㍍の山腹を15㌔の複線トンネルが貫き、その前後はループ線やヘアピンカーブが連続し、息を呑む「絶景」に富む。

 ゴッタルド鉄道の魅力を知ってしまうと上越線の清水峠越えも肥薩線の矢岳越えも色褪せて見えるほど、スケールの大きい山岳鉄道である。2016年、勾配緩和のため掘削したゴッタルド基底トンネル(長さ57㌔。青函トンネルを抜き現在世界最長)が開通したが、幸い1882年に完成した旧線も廃止されずに残っている。

 1950年代初頭、英国ウェールズの廃止された狭軌のTalyllyn鉄道(ウェールズ語でタリスリンと読む)を惜しむ人々が拠金して買い取り、線路と車両を復元して営業を再開した。これを嚆矢として、保存鉄道は英国だけでなく豪州、北米、欧州一円に広がった。

 英国では1960年代、ビーチング国鉄総裁の時代に赤字線の大削減を行った結果、皮肉にも100を越える保存鉄道が生まれた。 

 英国保存鉄道協会(Heritage RailwayAssociation)のホームページを見ると、保存鉄道が国中に広がっているのが分かる。大規模な保存鉄道は20㌔程度の路線に動態保存機関車を10両以上も保有、多数の客車を使って毎日数往復の列車を運行し、立派な車両検修設備まで持っている。日本のローカル線よりもはるかに立派な鉄道がボランティアの力と支援者の寄付で運営され、観光客を引きつけて地域振興の中核になっている。

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