〈旬刊旅行新聞10月1・11日合併号コラム〉安定して利益を出す持続可能な宿へ――対応できない大きなピークを作らない
2022年10月7日(金) 配信
路地を歩いていると、金木犀の香りが漂う季節になってきた。以前は少し香りが強すぎると思っていたが、今年はその刺激がとても心地よく感じる。外出時にマスクを外して歩く機会が増え、五感が求めているからかもしれない。
今夏、息子を連れて沖縄県北部のオクマビーチで過ごした。夕日が沈むまで人気の少ないビーチのデッキで海を眺めていた。涼しい風が吹き抜けるなか、私が気づき、「ここはマスクいらんやろ」と指摘するまで、息子はマスクをしていた。3年に及ぶマスク生活が日常化していることを感じてしまった。
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9月22~25日には東京ビッグサイトでツーリズムEXPOジャパン2022が開催され、期間中に12万4074人が来場した。私も数年ぶりに取材で訪れ、旅行博の活気あふれる雰囲気を味わった。
国際交流にはまだまだ制限があるため、海外からのブース出展には若干の寂しさを覚えたが、まさに今回のEXPOのテーマである、「リスタート」の瞬間を感じた。
EXPOには日本の観光政策を牽引してきた実力者の1人、菅義偉前首相も訪れた。円安基調にあるなか、失われた5兆円規模の訪日外国人旅行者による消費拡大へ、大きな期待を熱く語っていた。
インバウンドについては、1日5万人と制限されていた入国者数の上限が撤廃され、海外からの個人客も飛躍的に増えていくだろう。インバウンド需要を見据えたホテル・旅館や、観光施設が開業に向けて再び動き始めた鼓動が聞こえてくる。
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観光業界も「サステイナブル(持続可能であるさま)」について語られる機会が多くなった。一方で、インバウンドの大幅な水際緩和に加え、10月11日から全国旅行支援がスタートする。観光業にとっては待ちに待った追い風となるため、「地獄のような緊急事態宣言下に比べたら断然いい」という声になるのだが、「サステイナブル」の観点からみれば、最も好ましくない状況が続くことになる。
未曾有のコロナ禍とはいえ、国の政策が観光業の「繁閑差」を極限まで拡げているように思える。全国旅行支援に併せて、旅行需要の平日への分散を推進する目的で「平日にもう1泊」キャンペーンも展開するが、観光業界の本音は「太く短い」支援よりも「細く長い」支援だ。
約3年間に及ぶコロナ禍で、現場の人材を最小限に削って凌いできた観光施設がほとんどである。基礎体力が落ちているなかで、突然トップギアに入る状況になる。それだけでない。現場には、割引制度に対する事務作業の煩雑さも加わる。
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全国的な旅行支援策に対応するために人材を集めようとしても、「飲食や観光産業の不安定さ」を目の当たりにしたため、募集しても、とりわけ若い世代の補充は容易ではない。
国の柱として観光産業をしっかりと育てていくのであれば、爆発的な需要を生み出す支援策でいいのかと疑問も生じるが、理想的な細やかな支援を望むべくもない。
それであれば、宿泊施設自ら制限をかけてピークを抑える努力が必要だろう。目の前に大きな需要があるのに制限することはとても難しい。しかし、対応不可能な大きなピークを作らないことも、安定して利益を出す持続可能な宿経営には大切なことだ。
(編集長・増田 剛)