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「街のデッサン(258)」 文明が衰亡するとき、地球の未来を発明できるか

2022年10月16日(日) 配信

美しい家並が村の平和を語る(ルーマニア)

 人類は太陽系の他の惑星に人間を運び、また安全に帰還させられる高度な科学技術を発達させたが、いまだにその技術を使ってミサイルや戦車で殺しあう戦争が絶えないのを見ると、構築してきた文明の構造に致命的な欠陥が存在しているのではないか、と疑念を持ってしまう。この世に生まれた文明は、局所的に盛衰を繰り返してきたが、地球規模の戦争やウイルスの感染は一挙に人類を滅ぼしてしまうだろう。ウクライナとロシアの戦争は、EUやユーラシア大陸の問題に留まらず、世界の存亡に深く関わっているのである。

 電子工学者で未来学者のデニス・ゲイバー(ガボール)は1963年に書いた本で、既に人類の3つの危機を挙げている。それが「核戦争」「人口問題」「余暇の時代」の3つである。書棚から引っ張り出した彼の著作を開いてその慧眼に驚嘆した。まさにプーチンが仄めかした「核兵器」の使用可能性への言動は、その危機の1つが現実化することを示唆していた。そして、世界の穀物庫であるウクライナの農産物の輸出阻止による食糧危機は、「人口(増大)問題」を浮き彫りにしている。

 3つ目の「余暇(レジャー)」の問題は、観光業界全体にもかかわる課題を提供している。すなわち私の理解では、ゲイバーは人類を「平凡人の楽園」と「非凡人の将来」に分けて、レジャーが例え愉楽であっても、それらを自分自身の経験的叡智としてチャージできるか、あるいはその機会をディスチャージ(浪費)のみで過ごしてしまうか、2つの隘路をイメージしているようだ。本来、レジャーとは人間を「自由にさせる時間」のことであるが、その時間を強靭な思考の基盤にするのが「非凡人」であり、平凡人は享楽だけで終わらせてしまう。核戦争を破棄させ永続する幸せ社会を創造するのが非凡人の未来的役割であり、平凡人は悦楽に身を委ね戦争を阻止できず食糧危機を回避させることはできない。ゲイバーが書いた本のタイトルは「INVENTING THE FUTURE(未来を発明する)」。このコンセプトは「未来は予測できないが、それを発明することはできる」という有名なキーワードとなって語り継がれてきた。

 日本の政治学者・高坂正尭が81年に書いた本「文明が衰亡するとき」で、ローマ帝国の崩壊とヴェネツィアの挫折、現代アメリカの凋落を分析し、それぞれの「社会的叡智の衰退」を指摘している。日本の観光業界が今後「観光大国」を目指すとき、この社会的叡智の涵養基盤をどう考えるべきか問われている。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

 

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