持続可能性という新しい価値を探る DMO雪国観光圏や帝国ホテルの先進事例
2022年10月13日(木) 配信
日本能率協会はこのほど、宿泊業界向けオンラインセミナー「これからのホスピタリティとは『持続可能性』という新しい価値」を開いた。業界がサステナビリティに取り組む必要性などを探った。
はじめに、いせんの社長とDMO雪国観光圏(新潟県・湯沢町)の代表理事を務める井口智裕氏が、経営するryugon(同南魚沼市)と同DMOのそれぞれが取り組む持続可能性について説明した。
同DMOは湯沢町や長野県・栄村、群馬県・みなかみ町など3県の7市町村への誘客を行う組織。8000年前から続く雪国で育まれた知恵「雪国文化」を紹介している。町それぞれが町内の魅力をアピールするなか、広域で活動することでさまざまな人に関わってもらい、地域を活性化したい考えだ。
具体的には、「ryugon」は雪国文化をテーマにリニューアルした。このほか、雪国観光圏では、地元の食材を使用している宿や料理店を雪国A級グルメとして紹介している。
そうしたなか、「日本の温泉旅館の魅力が海外に伝わりづらいことが課題だった」(井口氏)ことから、欧米で広まっているというゴミや化石燃料の削減目標を数値化するなど、環境に配慮した高付加価値型の宿泊施設「エコロッジ」を推進していることを外国人にアピールしていると語った。
続いて、帝国ホテルSDGs推進担当課長の平石理奈氏が「サステナビリティの推進活動」をテーマに登壇した。
同ホテルでは2001年に、環境委員会を発足。20年にはサステナビリティ推進委員会を立ち上げた。
01年には、乾燥機を設置。生ゴミから作った肥料で育てた野菜をレストランで利用している。こうした取り組みで、1年間における生ゴミの排出総量のうち、70%をリサイクルしている。
また、20年には感染対策も兼ねてバイキングをオーダー方式に変更し、従業員食堂では食事会場で提供しない野菜の端材を使うことで、ゴミの量を前年から約8割減らすことができたという。
脱プラについては、プラスチックの素材を竹や木製などに切り替え、約92%プラスチック量を減らした。
省エネ対策として、上高地帝国ホテルでは、発電時に二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーに由来する電力「CO2フリー電気」を使用している。50年には二酸化炭素の排出を実質ゼロとすることを目指している。
そのうえで、平石氏はこれからのホテルに求められることについて、「滞在が環境や社会課題の解決につながること」と語った。
一方、ラグジュアリーとサステナビリティは相反するとして、お客の理解を得るためのSDGsセミナーを開催していることを紹介。「利用客の声を聞きながら、よりサステナビリティを推進していきたい」と話した。
最後にパネルディスカッションを開き、井口氏と平石氏が登壇。モデレーターは宿の品質認証プログラム「サクラクオリティ」を運営する観光品質認証協会統括理事の北村剛史氏が務めた。
SDGsに取り組んだ成果について問われた井口氏は「ごみの排出量の目標を数値化することで、スタッフの削減に対する意識が向上した」と述べた。
また今後は、「小さい旅館単館でSDGsを推進しても、お客様には『経費削減のため』と思われることもある。地域という大きい単位で声を挙げ、お客に理解してもらいたい」と話した。
平石氏は約1700人の従業員が一丸となってSDGsに取り組めている理由を訊ねられ、企業理念で公益性の追求を掲げていることを挙げた。
社内で徹底するために、決裁書では「新しく実施する取り組みについて、SDGsの目標のうち、達成できる項目を記載する欄を設けた」と語った。