「観光立国推進基本計画」改定へ議論を再開 消費額は19年水準まで戻す
2022年11月9日(水) 配信
観光庁は11月7日(月)、「観光立国推進基本計画」の改定について審議するため、第43回交通政策審議会観光分科会を開いた。岸田文雄首相の指示のもと、2025年をターゲットにした新たな「観光立国推進基本計画」を22年度末までに策定する予定だ。今回の分科会では、旅行消費額をコロナ前の19年の水準まで戻すことを目標とし、人数に依存しない指標設定の有無などを論点に、有識者へ意見を求めた。
観光立国推進基本計画の改定において、前回の観光分科会が開かれた2021年12月から、新型コロナの感染状況が落ち着き、中期的な計画の議論ができると判断するまで具体的な議論は中断していた。
10月11日(火)から水際措置の大幅な緩和や全国旅行支援の開始など、国内外の観光需要を本格的に回復させていく局面に突入したと判断し、改めて議論を再開した。
観光庁の和田浩一長官は冒頭で、「新たな計画では、コロナの回復期における観光の基本的な方向性・目標・施策についてまとめていくことになる。観光を巡る状況や、コロナによる旅行者の意識の変化などを踏まえながら、観光によって全国各地で地域活性化をはかるとともに、持続可能なカタチで観光を復活させていくため、委員の皆様の意見をお聞きし、議論を深めていきたい」と話した。
矢ケ崎紀子分科会長は、「コロナ前と比べて、観光を取り巻く環境は大きく変化している。委員の皆様の忌憚のない意見をいただきたい。また、25年には万博や世界陸上が開かれるなど、世界に向けて日本の魅力を発信する絶好の機会となる。議論を中断していた観光分科会も、審議を再開するので、新しい計画が充実した内容となるようしっかりと進めていきましょう」と委員に呼び掛けた。
観光政策の方向性としては、「国内交流拡大戦略」、「インバウンド回復戦略」、「高付加価値で持続可能な観光地域づくり戦略」の3つの視点から考えられる。
今回の分科会から初めて参加した星野佳路氏(星野リゾート代表)は、観光業の人材不足の解消について、「生産性を向上させることで利益を生み出し、製造業並みの給料を支払えるようになれば解決する」と持論を展開し、民間企業の生産性を高めるための政策の重要性を語った。
また、東京・大阪・京都に集中するインバウンド需要とオーバーツーリズムの問題についても触れ、都市に集中する旅行客を地方に分散させ、過密のバランスを取ることでオーバーツーリズムが解消できるとした。
「コロナ禍を経て、マイクロツーリズムは大事だと感じた。インバウンドや全国規模の旅行支援だけではなく、マイクロツーリズム事業を各地域で維持することで、地域の観光の力を強くすることにつながり、観光の地域格差を埋める手立てになる」と話した。
恩藏直人氏(早稲田大学商学学術院教授)はインバウンド向けの特別な体験・新たな体験について、「旅行者が自国で経験した体験にも注目してほしい」と要望。
施策のなかでは、日本に来てからの場所やイベントに焦点が向けられがちだが、「自国で日本酒を飲んで酒蔵に興味を持つように、人々の記憶はその後の消費行動に影響する。まずは海外で商品を売り出し、ストーリー性や歴史などの経験価値を付加してインバウンドに結び付けてもらいたい」と話した。
今後については、23年1月には計画骨子を提示し、目標について議論。2月に計画素案を定め、3月には計画案を取りまとめる予定だ。
分科会の委員は次の各氏。
□分科会長
▽矢ケ崎紀子(東京女子大学現代教養学部国際社会学科教授)
□委員
▽加藤一誠(慶応義塾大学商学部教授)
▽篠原文也(政治解説者、ジャーナリスト)
▽住野敏彦(全日本交通運輸産業労働組合協議会議長)
▽伊達美和子(森トラスト・ホテルズ&リゾーツ社長)
▽田中里沙(事業構想大学院大学学長、宣伝会議取締役)
▽野田由美子(ヴェオリア・ジャパン会長)
▽屋井鉄雄(東京工業大学副学長、環境・社会理工学院教授)
□臨時委員
▽秋池玲子(ボストン・コンサルティング・グループ日本共同代表)
▽秋田正紀(経済同友会副代表幹事、松屋社長執行役員)
▽奥直子(京都ホテル経営企画部長)
▽恩藏直人(早稲田大学商学学術院教授)
▽鎌田裕美(一橋大学経営管理研究科准教授)
▽黒谷友香(俳優)
▽菰田正信(日本経済団体連合会副会長、観光委員会委員長、三井不動産社長)
▽原田静織(TOUCH GROUP代表取締役)
▽星野佳路(星野リゾート代表)
▽萬年良子(ベルトラ取締役COO)
▽山内弘隆(武蔵野大学特任教授、一橋大学名誉教授)