旅館で全国初耐震改修、中原別荘
10月完成、安心・安全で差別化
建物の耐震化を義務づける「改正耐震改修促進法」が昨年11月25日に施行されて全国の旅館で初めて、鹿児島県鹿児島市の中原別荘(中原国男社長)が全面的な耐震工事を行い、10月20日から営業を開始した。
同ホテルは1963年築の4階建て、67年築の6階建て、72年築の7階建て、そして2階建てレストランの4棟がつながる形で構成されており、「今後営業継続するなかで、改築より耐久を目指した工事を2012年から計画し、約800万円をかけて独自に耐震診断を行った」(中原明男専務)。
結果、「補強すれば大丈夫」という診断を受け、動き出そうとした矢先、昨年5月に耐震法が閣議決定。11月に法律が施行されたなかで、改めて国の認定を受けるため2回目の耐震診断を受けた。
ただ、中原専務は「耐震補強をしても、現在の耐震基準に沿った強度が出るかを一番心配した」という。診断の結果、同ホテルのコンクリートの状態は良好と判断され、これで計画が前に進んだ。
中原専務は「銀行からは25年で融資を受けたが、借金の返済が終了したときが建物の寿命だと思っている。25年後が次の事業を考えるとき」と割り切る。とくに今回の工事では、耐震補強と合わせ、今年4月に改正された消防の表示制度への対応も重視した。
工事では構造計算をあい設計、施工を竹中工務店、建築事務所はDAI建築デザインに依頼した。工事費は7億5千万円となった。国の補助は約3千万円だ。
工事期間は5月30日から8月26日までの3カ月間、全館休業して耐震工事を行い、10月20日に完成した。社員は6割の休業補償を支払い、完成後には全員が復帰した。
工事は複合型で強度を出すことが大きなポイント。ホテルの外側は学校などに使われるブレースのピタコラム工法にした。通常は鉄骨のブレースだけだが、鉄筋を入れコンクリートでかぶせて、さらに強度を高めさせた。
柱は強固にするため繊維巻きにし、食事場所は柱の芯を太くするため土台をコンクリートで分厚くした。さらに耐震壁を7階まで設け、客室の一部にはブレースをはっている。
また、耐震改修に合わせ、全館禁煙にも踏み切った。
中原専務は「年間1万人の教育旅行を受けているが、東日本大震災以降、耐震改修済みや、基準を満たすホテルを希望する学校が増えた」と話し、「生徒の安全、保護者の安心に応えられることが、ほかとの差別化にもなる」と自信を見せる。
今回の改修を機に、社名も「温泉ホテル中原別荘(全館禁煙、耐震改修済)」として、耐震に向けた決意を看板にも掲げた。