津田令子の「味のある街」「都電もなか」――都電もなか本舗 菓匠 明美(東京都北区)
2022年11月19日(土) 配信
1911(明治44)年から昭和40年代まで都民の足として、東京都内を縦横に走っていた都電。最盛期(1955年ごろ)には約213㌔、40の運転系統を擁し、1日約175万人が利用する日本最大の路面電車だった。
モータリゼーションの進展や営団地下鉄、都営地下鉄の発達によって採算性が悪化したこともあり都が都電の全面撤廃を決めた。この決定に現在の都電荒川線の利用者や沿線住民の方から存続運動の声が上がり始めたという。「下町情緒豊かな街並みに溶け込む庶民の足である都電を、何とか残せないものか」と動いた人は多かった。
その甲斐あったかどうかは計り知れないが、荒川線は現在も、三ノ輪橋―早稲田間(12・2㌔・30停留場)を運行している。地域の身近な足として親しまれ沿線には、桜やバラなど花の見どころや歴史・文化に触れられる名所旧跡、生活感あふれる昔ながらの商店街など、多様で魅力あるスポット満載のエリアを走っている。
都電もなか本舗菓匠明美は、都電の存続が危ういころから「都電」を何かのかたちで残せないものかとの思いから考案し、1977(昭和52)年に「都電もなか」を商品化した。以前からこの界隈には、これといった土産品がなかったことも手伝って地元に根付いた「都電」を「もなか」という形に変えて後世に残すことにしたという。
店は荒川車庫前駅の隣駅「梶原駅」で降りて駅前の商店街入り口にある。店内には、四季を通じて常時30種類以上の和菓子(生菓子・焼菓子・上生菓子など)がショーケースに並ぶ。
とくに「都電もなか」は、地元のみならず、遠方からもこれを目当てに買い求めに多くのファンがやってくる。都電の車両型焦がし最中種に北海道産最高級小豆使用のつぶし餡と、短冊状の求肥餅の入った素朴な1品だ。
下町の人情と真心・味へのこだわりから生まれたオリジナル菓子は、全国菓子博覧会においても数々の最高賞を受賞している。都電荒川線に揺られて途中下車してのぞいてみては。
(トラベルキャスター)
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。