観光庁・文化・歴史資源活用推進室 遠藤翼室長に聞く 「活用」と「貢献」の2つの視点で観光庁が進める「文化財観光」
2022年11月24日(火)配信
観光庁は今夏、文化・歴史資源活用推進室を新設した。国内外で年々注目が高まっている「文化財」を活用した観光施策を立案する部署で、文化財の活用と保全、各地域で文化財を活用した観光の取り組みを進める人の支援を、関係省庁と連携して推進する。遠藤翼室長に、同部署が今後政策を進めるうえで指針とする「文化財観光」への考え方を聞いた。
文化・歴史資源活用推進室は、観光地域振興部 観光資源課 地域資源活用推進室を「文化」と「自然」の2つの部署に分けるカタチで今夏新たに設置された部署です。今後外国人旅行者が再び増加すると予想されるなか、「自然」と「文化」、両コンテンツへの興味・関心もますます高まり、より注目される分野になるとの予測のもと、各分野の取り組みを深めていくために2つの部署に分けることになりました。
私たち文化・歴史資源活用推進室の役目は、文化・歴史を我が国の非常に重要な観光資源と捉え、その保全と活用を進めることです。一口に「文化」といっても、国が指定する国宝や重要文化財のみならず、各地域の中で尊重されてきた文化や無形の風俗などその幅は広く、当然ながら、それらすべてを観光資源としての「文化・歴史」と認識しています。
「私たちのまちには何もない」という人が多くいらっしゃいますが、「自分たちの地域が現代を生きる旅行者にとっての非日常の体験の場になっているか」を考えることが大切ではないでしょうか。観光客を呼び込める資源の「有無」という発想のみでは、見せるものや資金が無くなった時点で残念ながら観光資源に終わりが来ます。こうした発想のみならず、旅行者の日常を深く洞察することで、非日常である観光資源を浮かび上がらせることが、持続可能な観光の取り組みを進めるうえで大切だと私は感じています。
また、サステイナブルやエコなど、今現在の社会的な課題から地域を見つめることで生まれる価値もあるはずです。これらを見定めれば、何もないと思っていたまちでも実は「非日常の体験の場」になりうるだけでなく、「社会的な課題解決を実践・実装する場」としての可能性があると気が付くことができるのではないでしょうか。
もう一つ文化・歴史の活用をはかる際には、旅行者の文化・歴史に対する「貢献」を通じた満足度の向上を真剣に考えることが重要であると考えています。現状、我が国の文化・歴史を取り巻く現状は厳しく、人口減による担い手不足、厳しい予算制限、資材や技術不足などにより、全国で文化・歴史を守り維持すること自体、大変厳しい状況と認識しています。
私はこれらの課題を解決するキーワードの一つが、旅行者による「貢献」であると考えています。旅行者が観光を目的に訪れることで、地域の文化・歴史を「どう守るか」、「分かりやすく、かつ満足できるカタチでどう伝えるか」、「寄付・入館料などの金銭的な収入をどのように効果的に地域に還元できるか」、「伝統芸能などを披露する場として、地域に負担にならないカタチで整備する方法はないか」を真摯に議論する。その際、「活用したいカタチで活用する」という陥り易い課題に嵌まることなく、常に他者の目を良き刺激とすることが、より高品質な体験を提供につながると思います。
政府は水際措置を緩和した10月11日、官邸で第16回観光立国推進閣僚会議が開催されました。その中で世界的な旅行需要の回復が見込まれる2025年に大阪で開かれる日本国際博覧会に向け、我が国の観光を持続可能な形で復活させるための新たな「観光立国推進基本計画」の策定を含め、観光立国の復活に向けた3点の取り組みを進めるよう関係官庁に指示が出されました。
私たちも、このなかに示された政策のもと、これまで進めてきた多言語解説事業や歴史的まちづくり、サステイナブルツーリズム、受入環境整備などを進め、観光立国の復活、インバウンド需要の回復に努めていきます。
また、インバウンド需要の回復にあたっては、新型コロナウイルス感染症の流行前、各地で問題となっていた「オーバーツーリズム」の解決も求められます。本来こうした現象が生じないことが最も適切ですが、ここでも地域に「どの程度貢献してもらうことが適当か」という議論に基づき、必要な取り組みを各地域で進めていただければと思います。観光業界は新型コロナウイルス感染症によって約3年間、苦しい状況に置かれました。だからこそ、アフターコロナの観光政策を考えるうえでは「訪れる人の数」を追うのではなく、「訪れる人がどれだけ満足し、地域に貢献いただけるか」をとことん突き詰め、それに向けた特別な取り組みを実行してほしいと思っています。
この問題の解決策として「高付加価値な体験活動」を提供することが、有効な取り組みの一つであると考えますが、その有り様は多様であるべきとも考えています。「我が地域にとって、最も適切な高付加価値な体験とは何か」という問いに、真剣に答えていく必要があります。
最後に、ここまで旅行者による「貢献」について指摘してきましたが、その趣旨は旅行者におもねることではありません。旅行者による「貢献」が行き過ぎると、旅行者のニーズに応えることが至上命題となり、本来保存すべき文化・歴史に悪影響が生じる懸念があります。
両者のバランス・拮抗と質の高い議論、そして何より、結論を出して実行していく行動力にこそ、私たちはしっかりとした支援を行う。言うは易しではありますが、各地域で奮闘されている関係者の皆様とともに、より良い方向に向け、共に進んでまいりたいと考えています。