「観光革命」地球規模の構造的変化(253) 平和産業としての役割
2022年12月5日(月) 配信
10月に開催された中国共産党大会で習近平総書記(国家主席)の3期目続投が決まると共に、最高指導部人事で習氏の独裁体制が強化された。習主席は祖国統一の偉業を成し遂げると強調しており、しかも従来の「平和統一」を超えて軍事力行使の可能性についても言及している。
一方、米中覇権争いが激化する中で台湾問題を巡って、米中対立が先鋭化している。米国は台湾防衛を言い募っているが、その根底には「半導体」がある。今や台湾は半導体の最大の供給源になっており、世界最大の半導体メーカー「台湾積体電路製造(TSMC)」はそのシンボルである。
もしも、中国が台湾を併合するならば、米国のハイテク産業は壊滅的な打撃を受けることになる。米国は半導体の戦略的重要性を十二分に熟知しており、世界覇権を維持するために半導体サプライチェーンの確保を最重要の国策にしている。
中国で習近平主席の独裁体制強化に伴って、日本の自民党タカ派議員たちは声高に防衛費の倍増を主張し、現時点では米国製長距離巡航ミサイル(トマホーク)の導入を提唱している。トマホークは射程が2500㌔で、中国の主要都市まで射程に収まるため、中国軍部は非常に神経を尖らせている。
台湾近海で米中の緊張が著しく高まっており、偶発的衝突から本格的紛争への発展は絶対に避ける必要がある。現在の日本にできることはトマホークの導入ではなく、「外交力」強化である。日中両国が入っている多国間の枠組みを活用し、粘り強く関係改善をはかるべきだ。例えば、ASEAN+3(東南アジア諸国連合+日中韓)や東アジアのRCEP(地域的包括的経済連携)などが重要。
日本にとって日米同盟は極めて重要だが、その一方で、経済的には中国が日本最大の貿易パートナーであり、2021年の貿易総額は約38兆円に上っている。しかも、ポストコロナを想定して観光立国をはかる際に最も期待すべきは中国人観光客である。
観光産業はピース・インダストリー(平和産業)であり、観光を通して人々が親しく交わることで相互理解を深め、「平和の礎」を築く役割を果たすべきだ。世界の分断化は人々を不幸にするだけであり、世界に幸福をもたらす平和産業は今こそ本領を発揮すべきであろう。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。