津田令子の「味のある街」「丁字麩」――麩惣(滋賀県近江八幡市)
2022年12月5日(月) 配信
日本一の湖・琵琶湖を有する近江八幡市。日本経済の近代化にも八幡商人をはじめとする近江商人たちが大きく貢献した地でもある。彼らは買い手よし、売り手よし、世間よし、という三方よしの理念を商売の基本とし、自らの利益のみを追求することなく社会事業に大きく寄与したことでも知られている。八幡商人たちが残した財産は、形に残るものばかりでなく、むしろその精神に大きく価値があるといわれている。
この地の名物といえば、鮒ずし、近江牛、丁字麩に赤こんにゃく、そしてでっち羊羹などが知られている。今回、我が家では冬に欠かすことのできない創業嘉永年間・近江の名麩手焼き「丁字麩」を紹介しよう。
丁字麩とは、マッチ箱をちょっと大きくしたサイズの四角い焼き麩で、6面全体が焼かれているため煮崩れせず、鍋料理やうどんなどさまざまな料理に使用でき、精進料理には欠かせない食材でもちもちとした食感になめらかな舌触りが特徴的だ。
昔の麩は丸い棒のような形をしていた。近江商人は日本中を歩いて商売をしていたため、丸い棒の麩では折れて困るということで束ねて使いやすく運びやすい四角い麩になったと言われている。また戦国時代、豊臣秀次が、形の丸い麩は持ち運びに不便なため、町並みのような四角い麩になったという説もある。両面に線が入っている理由は「小京都」とも呼ばれる近江八幡の街の小路を示すもので、城下町に住む人達を忘れないようにするためだという。
麩惣の「丁字麩」は、小麦のたんぱく質(グルテン)と小麦粉と水を原料に焼き上げた手作りの植物性タンパク質食品だ。鍋物や和食はもちろん、洋食や中華料理にも最適な一品だ。
包装紙の裏に記されている食べ方は、からし和えと磯揚げ。早速試してみた。麩ならではの旨味と食感が相まってとても美味しい。マカロニとともに麩をホワイトソースに混ぜたグラタン風にアレンジしてみたら、これがかなりグッドなのである。
この冬は風情ある街並み・八幡堀の夜間のライトアップも楽しめる近江八幡を訪ねてみては。
(トラベルキャスター)
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。