「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(143)価値を創り出す「語り」 こだわりを真の価値に
2022年12月2日(金) 配信
レストランで、サービススタッフがテーブルに料理を運んで来ると、「お待たせいたしました。何々です」と、丁寧な言葉を添えて提供してくれる店が多くあります。そのなかには、単に料理名だけでなく、食材の産地や調理方法など詳しく説明をする店もありますが、多くの店でその声がよく聞き取れないということがあり残念でなりません。とくに、料理に詳しくない私には、産地名や食材などは初めて知ることも多く、その内容を十分理解できないこともあります。その理由は、スタッフがシェフから言われたことを十分に理解せずに、覚えたことを単にテーブルで話しているだけなのではないかと思うのです。そんなときは、料理の説明を聞くより、早く料理を食べたいと思うのです。
逆に、その説明が興味深いものであれば、「温かいうちにお召し上がりください」と言われるまで、長話をしてしまうことがあります。最高の状態で食べてもらいたいと腕を振るって下さったシェフには申し訳ないのですが、そうしたときほど、そのひと皿を本当に美味しく感じるのです。そこで、それぞれのスタッフに、どの様な違いがあるのか、現場でのおもてなしを考えてみましょう。
お客様のなかには、説明を十分に理解できる食通もいますが、単に聞いているだけという人も多くいるでしょう。だから、お客様がどれだけその話に興味を持ち、楽しんで聞いているか、注意しなければなりません。また、興味を持って聞いてもらえる内容や話し方も必要です。料理の説明をする目的は、お客様に料理を楽しんでもらうため以外に、大切な時間をいただく理由はありません。
説明を聞いて、料理を楽しめたというのは、単に食材の産地を伝えるだけではありません。その産地の食材が、提供された料理にどの様な価値を持つのかにあります。また、他の調理法に比べて、その食材の味をどの様に引き立たせるのかなどを聞くことが、目の前のお皿に盛られた料理への興味・関心をより深めるのです。
最近多くなったペアリングも同様で、ワインやお酒、お茶を詳しく説明されますが、それらが料理をどの様に引き立てるものとして選ばれたかの説明が不十分に感じます。
現場では、「こだわりの」という便利な言葉が、多く用いられるようになりました。しかし、その「こだわり」という言葉が、提供者の「こだわり」ではなく、食事を楽しむ人やサービスを受ける人にとってのメリットとして語れるかが「価値」そのものを生み出すのです。
お客様との会話を如何にしたら楽しい時間にできるのかを考えて、そこに自らの仕事への誇りを創り出す想いが必要なのです。
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。