「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(215)」軍港クルーズサミット(神奈川県横須賀市)
2022年12月18日(日) 配信
12月初旬、横須賀市浦賀にある「赤煉瓦ドック」で、珍しい「クルーズサミット」が開催され参加した。旧鎮守府4都市(横須賀市・呉市・佐世保市・舞鶴市)それぞれに、個性的な「軍港クルーズ船」が就航しており、今回はその4港の関係者が集まる初めてのシンポジウムであった。
この「鎮守府」の物語(日本近代化の躍動を体感できるまち)は、2016年に日本遺産に認定され、以来、旧軍港市日本遺産活用推進協議会を核に、それぞれの都市の個性を生かしながら多様な連携事業を展開している。
例えば、海軍の港まちスタンプラリーや、毎年10~12月に掛けて実施される「日本遺産WEEK(22年度からMONTHに名称変更)、各市にある高専(一部大学)関係者による学術交流会や、各市のガイドがそれぞれの経験を交流する「ガイド交流会」などである。
しかし、これらの事業は、どちらかと言えば行政主導であり、これからは各都市の民間事業者による連携が求められていた。
今回は「YOKOSUKA軍港めぐり」を主催するトライアングルが各都市に呼び掛け、呉市の「呉湾艦船めぐり」(バンカーサプライ)、佐世保市の「SASEBO軍港クルーズ」(安栄丸水産・佐世保観光コンベンション協会)、舞鶴市の「海軍ゆかりの港めぐり遊覧船」(まいづる広域観光公社)ら関係者がこれに応じた。
各軍港クルーズは、旧鎮守府時代からの共通の地形を舞台に、それぞれの港ごとの特色を生かしている。横須賀と佐世保は戦後、米軍基地が置かれ、湾内の中心部に米軍の空母やイージス艦などが停泊している。呉港は何といっても大和ミュージアムが起点であり、当時の大屋根が残る戦艦大和の建造所を見ながらの航海が魅力的。また、舞鶴は赤煉瓦倉庫群(現在は赤れんがパーク)から発着するクルーズで、静かな湾内ののどかなクルーズが魅力的である。
サミットでは、各港クルーズ担当者から、それぞれの港のクルーズの特色や魅力、他のクルーズにない自慢などをお話しいただいた。これまで関心はあったものの他都市の軍港クルーズの話を間近に聞くのは新鮮であり、各クルーズ当事者も真剣に話を聞いておられたのが印象的であった。当日は、ゲストとしてお招きした日本旅客船協会「船旅アンバサダー」の小林希さんを交えて、楽しいトークを展開した。
今回の会場は、最近、住友重機械工業から移譲された明治32年建造の横須賀赤煉瓦ドック内で、これも誠に魅力的であった。全長180メートル、深さ10メートルの巨大な赤煉瓦ドックは、いまや世界に5つしか残存しない貴重な文化財である。
各地でクルーズが大きな注目を集めるなか、遠く離れた地域の民間企業による自発的な試みは、今後の民間企業による事業連携の大きな弾みとなろう。大いに期待したい。
(日本観光振興協会総合研究所顧問 丁野 朗)