「観光革命」地球規模の構造的変化(254) FECTの重要性
2023年1月3日(火) 配信
観光業界にとっては重苦しい新年を迎えている。世界的にコロナ禍が完全に克服されたわけではなく、新たな変異株の出現が各国で報告されており、従来のワクチンが効果を発揮できない危険性も指摘される。また地球温暖化に伴う諸々の異常気象の発生も懸念される。ウクライナ戦争の泥沼化に伴って、世界的にエネルギー危機や食糧危機が顕在化しており、世界の分断化に拍車がかかっている。
米国と中国による覇権争いが継続しているが、バイデン政権には世界の覇者としての役割を果たすパワーがなく、一方で独裁体制を強化している中国の習近平政権もいつ崩れてもおかしくない不安定さを抱えている。
日本はひたすら日米同盟を重視しているが、経済面や観光面を考えると中国を軽んじることはできない。されど岸田政権は極めて脆弱であり、混迷の度合いを深める国際政治・経済の変化に的確に対応できない可能性が大だ。岸田政権は基本的に財務省主導政権で、観光立国に熱心ではなく、むしろ増税路線を重視しているために、観光産業にとっては厳しい状況が続きそうだ。
コロナ禍以前の安倍政権では「観光ファースト」政策が積極的に推進されたが、コロナ禍を経験した日本の国民はもはや「観光ファースト」を考えていない。むしろ自分たちの日々の暮らしに直結するさまざまな社会的課題の解決こそが最優先と感じている。
人口減少による少子高齢化が急速に進展している日本の諸地域においてはむしろ「FECT自給圏の形成」が不可欠になる。Fはfoodsで「食料」、Eはenergyとeducationで「エネルギーと教育」、Cはcareやcureで「介護・看護や医療」、cultureで「地域文化」、civic prideで「市民の誇り」、Tはtechnologyで「技術」、trafficで「交通」、tourismで「観光」など。今後は1つの地域でのFECTの自給自足が重要になる。観光はあくまでも一つのカードに過ぎない。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。