「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(144)「知っていること」を増やすことから 実体験からの言葉を
2023年1月2日(月) 配信
さまざまな業界で、スタッフ研修が増えています。そのなかで成果をあげているのが「会話集をつくる」です。あるタクシー会社のドライバー研修では、空港まで乗車したお客様が降車するときに、「記憶に残る一言」をロープレ研修すると、「ありがとうございました。お忘れ物のないようにご注意ください」というタクシー乗車時によく聞く言葉しか出てきませんでした。
「その言葉にプラスして、もう一言をお願いします」と促すと、一生懸命に考えてもなかなか次の言葉が出てきません。もちろん、「その言葉も素晴らしい」と評価する人もいますが、それは長い業務の中で身に付けたものです。あるいは、その人の感性から生み出された言葉です。
やはり多くの人は、知らないことは実行できないのです。お客様への声掛けも、頭にない言葉はいくら考えても思い浮かばない。これはタクシードライバーだけなく、すべてのサービススタッフにも言えます。例えば、雨の降る夜遅くに、ホテルに到着したお客様へフロントスタッフは、どういうお迎えをするのか。あるいはレストランで早い時間に夕食を済ませたお客様に、会計係はどのような言葉を掛けられるか考えてみましょう。
スタッフはその都度現場で思いつく言葉を掛けていると思いますが、それを記憶して、現場で再び実行するのは非常に難しいことです。研修では、参加したスタッフ同士でどのような言葉を掛けたかを思い出しながらディスカッションして、ほかのスタッフの事例も共有し、掛ける言葉の事例をたくさん記憶してもらいます。
知っていることが増えれば、次はできることを増やします。繰り返しロープレ研修で、記憶したことを実際に言葉にしてやってみるのです。頭で理解していても意外とできないもので、やったことのないことはできません。恥ずかしさもあります。だからこそ、頭で理解したことを実際に行動してみるのです。さらに、異業種を含めて、利用者に喜んでもらえる言葉や行動を実体験から吸収しましょう。それを自身の仕事に置き換えて新しい行動を創り出すのです。
ある雨の寒い日に、仕事を終えて遅くホテルに到着したときです。ホテルのフロントスタッフに「雨の中、遅くまでお仕事お疲れ様でした。お部屋を温めてお待ちしておりましたので、ゆっくりとお寛ぎください」と声を掛けられ、一日の疲れも吹き飛んだうれしい記憶があります。そこからタクシードライバーは、「雨の中、お待ちいただきありがとうございます」、「夜遅くまでお疲れ様でした。ゆっくりとおやすみください」といった言葉を考え、「考動」するようになったのです。
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。