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「街のデッサン(262)」児童絵画コンクールと少年の旅、小学1年生の疾駆する情感

2023年2月12日(日) 配信

山懐を抜け、人生の旅へ(会津磐梯山に行こう!あかべこ、作者:吴昶悠)

 小学1年生の吴昶悠(ウー・チャンユウ)くんの描いた絵を見て深く感動した。そこには絵画のテクニックだけではなく、吴くんの子供としての何か強い情感を感じたからだ。

 その絵に出会ったのは、「世田谷児童絵画コンクール」でのこと。コンクールは、畏友の伊佐裕氏が主宰するもので今期が9期目。伊佐氏は「伊佐ホームズ」という住宅を中心とした技術レベルの高い建築会社を経営し、地域にこだわり、住まいがコミュニティの基盤になるという信念を燃やす企業家だ。美しい環境を保持するために「まちづくり」や「場づくり」の思想を大切にしている。そこで、地域に暮らす子供たちに「ぼくの町、私の好きな場所」をテーマにコミュニティの誇りとなる「場=プレイス」の絵画を描いてもらうことを思い立つ。伊佐氏自身が画家を目指し東山魁夷の風景画に傾倒、一時は弟子入りを志したが無念にも叶わず、高校時代の先輩に東京芸大の油絵科の教授を勤めた坂口寛敏先生がいて、機会あるごとに励まされ絵画展を創案した。伊佐氏と私は、北海道の原野の先駆的まちづくりで知られる実業家の紹介で知り合った。伊佐氏が事業を立ち上げたばかりのときで、30年を超える親交となる。

 絵画コンクールの1期目から審査員を頼まれたが、その経験は貴重だった。毎年小学1年生から6年生を対象にして300点以上集まる作品の中から優れた絵画を選ぶのは、彼らの作品を判別することではなく、彼らの作品から多くを学ぶことと知った。そして大きな楽しみは作品を提出した彼らがさらに毎年、修練し磨き上げた作品を提出してくれることだ。その昇華する作品を見続けることで、私自身が美の感性を涵養されることになる。絵画展で才能を担保された彼らプチ画家たちがこれからの社会と人生をどう創り出すか。

 吴くん家族は中国から日本に移住し、磐梯山の麓が最初の暮らしの場だった。吴くんが世田谷に移住したのは昨年の小学校に入学する直前。磐梯山の山里から世田谷の都会への移住は、5人の家族の一人ひとりにどんな感慨を与えたのか。学校で絵画募集を知って絵筆を執った吴くんが描いたのは、世田谷の風景ではなく磐梯山麓を走る電車。それは最初の故郷となった場所からの別離と、これからの世田谷での見えない未来が乗っている。絵の中に自分自身だという「赤べこ」が描かれている。何とエーゼンシュタインのモンタージュ手法だ。人生の大変節を描く小学1年生。その彼の心を思いやって何故か涙が出た。小さな旅が、人間を大きく飛翔させるのだ。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

 

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