「めぐる」「たべる」「つかる」 3つの視点で地域の宝探し ガストロノミーツーリズムの成功事例や課題などをフォーラム開き共有
2023年2月10日(金) 配信
奈良県コンベンションセンター(奈良県奈良市)で昨年12月12―15日、日本初のガストロノミーツーリズム世界フォーラムが開かれた。
国連世界観光機関(UNWTO)とバスクカリナリーセンター(BCC)による7回目の世界フォーラムで、日本での開催は初めて。約30カ国から食と観光に携わる政府関係者ら約450人が参加。「女性と若者の活躍促進」や「観光地、生産者の価値向上」に焦点を当て、ガストロノミーツーリズムの成功事例や課題などを共有した。
□第7回UNWTO世界ガストロノミーフォーラム(奈良)
ガストロノミーツーリズムとは、その土地ならではの食を楽しみ、歴史や文化を知る旅のこと。
開会式でUNWTO事務局長のズラブ・ポロリカシュヴィリ氏は岸田文雄首相が10月3日に行った所信表明演説で「インバウンド観光の復活により、訪日外国人旅行消費額の年間5兆円超の達成を目指す」と語ったことに触れ、「ガストロノミーツーリズムはそのための非常に素晴らしい方法。目標が達成されるよう、我われも支援する」と表明。「ガストロノミーツーリズムは社会を発展させ、雇用を創出し、地域の結束を強め持続可能な開発を可能にする。新しい観光地に人々を呼び込む力がある」と力を込めた。
一方国土交通省の石井浩郎副大臣は、観光庁の調査で海外から日本を訪れる人が期待することの第1位が日本食を食べることと説明し、「まさに日本の食文化は海外の方を引き付ける重要な観光資源であり、(この結果は)ガストロノミーツーリズムへの期待の高さを表している。国土交通省としても本フォーラムを契機に、地域活性化の柱の1つとしてガストロノミーツーリズムを推進する」とあいさつした。荒井正吾奈良県知事は「皆様と今日、明日とここでお話しすることは、持続可能な開発のためにも、地域的な社会の貢献のためにも必要なことであり、奈良での議論が実りあるものになることを祈願している」と語った。
3日間にわたり行われたフォーラムでは、事例の共有やフィールドワークなどを展開したほか、旭川大雪圏地域連携中枢都市圏や岩手県、下呂市観光協会など日本各地約30の自治体や団体らがブースを設け、地域の食や文化、観光の魅力を発信した。また13日に行われたガラレセプションでは徳島県三次市や滋賀県なども地域の伝統食などを参加者にふるまい、その土地の味を発信した。
12日には開会式に先駆けサイドイベントも行われ、ガストロノミーツーリズムや持続可能な観光に関わる地域関係者や支援事業者らが登壇、パネルディスカッションを通じ取り組みを共有。ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構の小川正人理事長もスピーカーとして参加した。
□ガストロノミーツーリズムは 経済・雇用・文化継承の点で重要
国連世界観光機関(UNWTO)とバスクカリナリーセンター(BCC)は昨年12月13日、JWマリット・ホテル奈良で会見を行い、同フォーラム開催までの経緯やガストロノミーツーリズムの重要性などを語った。
UNWTO本部、観光市場情報・競争力部長のサンドラ・カルバオ氏は冒頭ガストロノミーとツーリズムを組み合わせることが、「とくに地方の雇用を生み出す起爆剤になる」と語った。
そのうえで、「地方で伝統的な食や経験、地元食材を使った食事を楽しむということはゆっくりではあるが、再発見されている。そしてこの傾向は、新型コロナウイルス感染症の流行・拡大により人々があまり混んでいないところで本物の体験をしたいと感じるようになり、動きを加速させている」と現状を分析した。
BCC学長ホセ・マリ=アイセガ氏は「ガストロノミーツーリズムは経済や雇用、文化の継承の観点で重要」と強調し、「世界的に重要性が増している」と結んだ。
またホセ・マリ=アイセガ氏は「朝一番で魚市場に行き朝食を食べる、造り酒屋に行き酒造りの行程を見学したり試飲を楽しんだりする、レストランでどんな食材が使われているかどう調理されているかを感じ知ること、そして時には発酵ワークショップなどに参加すること」がガストロノミーツーリズムであると語り、「このような観光を楽しむ人は自分で情報を探したいという欲求があるので、情報の発信と関わる人の教育も重要になる」と強調した。
サンドラ・カルバオ氏は「(レストランで食事をした際に)その食材の原産地はどこか知りたい、訪れたいと考える人が増えている。またそれにとどまらず、生産者との対話を通じ学びたいという欲求も生まれている。今後ツーリズムとして重要になるのは、容易なカタチで提供すること」と強調した。
会見には奈良県知事の荒井正吾知氏とUNWTO駐日事務所代表の本保芳明氏も出席し、開催の喜びなどを語った。