【特集 No.628】豊岡観光DX 予約情報共有で単価と稼働率向上
2023年2月21日(火) 配信
豊岡観光DX推進協議会(会長=高宮浩之・山本屋社長、兵庫県豊岡市)は昨年6月、宿泊日や人数、利用客の居住地などの予約情報を城崎温泉街の加盟宿泊施設で共有するシステム「豊岡観光DX基盤」が動き出した。地域内の各旅館や全体のデータを参考にしながら、より緻密な需要を予測し、単価と稼働率を向上させる狙いだ。また、全旅連青年部の兵庫県城崎支部は第26回全国大会の褒賞に同システムを申請し、グランプリを受賞した。同協議会の中田翔真氏(きのさきの宿 緑風閣統括マネージャー)に詳しく聞いた。
【木下 裕斗】
□需要に応じ、従業員を調整 城崎温泉から市全体の発展へ
――城崎温泉の歴史を教えてください。
病気の人々を救おうと、僧侶である道智上人が720年、開湯しました。2020年には、湧出から1300年を迎えています。
そのなかで、城崎温泉が経験した最大の危機は、1925(大正14)年に発生し、温泉街のほとんどが焼けてしまった北但大震災と言われています。
震災のあと、これからの温泉街の在り方について議論されたとき、城崎温泉が選んだのは、当時の技術でコンクリートの建物を建てることも可能であるなか、「震災前の風情ある木造建築の町並みを取り戻すこと」でした。具体的には、宿泊客が浴衣で外湯や土産物店、飲食店など温泉街全体をそぞろ歩くことができるように再生しました。
これは、街全体での繁栄を目指す共存共栄の精神を受け継ぐことでもあり、「街全体が1軒の旅館」という共通コンセプトとしても表現されています。
――豊岡観光DXを導入するまでの経緯は。
城崎温泉では観光消費額の単価向上のほか、繁忙期や閑散期などの需要に応じた価格設定、人的資源の適切な配分・管理ができていないことが課題でした。
2019年には、温泉街の若手経営者で構成される二世会が、DXを活用した地域課題解決に向けた意見交換を行い、50項目以上のアクションリストを作成し、市とDMOとで共有しました。両者にとっても「タイムリーな宿泊データの把握をしたい」という課題があり、DX事業の方向性が一致していることを確認しました。
20年には新型コロナウイルスの感染拡大で、各旅館の経営維持が難しくなっていきました。各宿泊施設が大幅に減った観光需要に応じた価格を、勘と経験のマーケティングで設定していたなか、「共存共栄の精神のもと、正確なデータで単価を上げ、街全体でコロナに打ち勝ちたい」という認識が高まり、宿泊事業者にとって最上級の機密情報に当たる宿泊者情報の共有を決めました。市は決定を受けて、21年度予算にシステム導入の関連費用として約3400万円を計上しました。
――豊岡観光DXではどのようなデータを共有していますか。
協議会に加盟する宿泊施設が稼働率と客単価のほか、朝食や夕食など宿で用意する食事区分、OTA(オンライン旅行会社)や直販などの予約経路、宿泊者居住地、宿泊人数をほかの宿と共有しています。なお、個人情報保護の観点から、旅行客が特定されるデータは除いています。また、宿泊施設の個々の売上もほかの施設に共有されることはありません。
豊岡観光DXを運用する豊岡観光DX推進協議会には、二世会と豊岡市をはじめ、旅館組合や観光協会にも入会してもらいました。また、地域のDMOで観光地マーケティングを担う豊岡観光イノベーションが事務局を担い、城崎温泉全体でのDX導入を目指してきました。
豊岡観光DXには23年2月現在、城崎温泉街にある宿75軒のうち、46軒が加入しています。客室数ベースでは6~7割ほどに達し、エリア全体の状況を網羅することができます。
――具体的な活用方法は。……
【全文は、本紙1894号または2月22日(水)以降日経テレコン21でお読みいただけます。】