〈旬刊旅行新聞3月21日号コラム〉―― 城下町 時間旅行という別軸の旅も楽しめる
2023年3月20日(月) 配信
3月、静岡市に出張する機会があった。下りの小田急線で小田原駅まで行き、小田原駅から静岡駅まで新幹線「こだま」号を利用した。こだまはコロナ禍前には大きな荷物を持った訪日外国人旅行者で満席だった記憶があったが、どのような状況になっているかも興味があった。
結局、乗り合わせた車両は、大きな荷物を持った外国人旅行者のグループでほぼ満席状態。車内も旅行客の話し声が楽しげで活気があった。窓の外の風景も麗らかで、春の訪れとともに、本格的な旅行シーズンが到来したことを感じた。
折しも、マスク着用が「個人の判断」に委ねられた翌日であった。外国人を含めてマスクを外した人は少なかったが、日ごとに増えていくのだろう。
¶
あちこち旅をしているなかで、国内の県庁所在地で、ちゃんと訪れていない唯一の都市が、静岡市だった。もちろん、車や新幹線などで通過したことは数知れず。神奈川県で生活しながら、隣県の中心都市を訪れていないというのが、我ながら面白いと感じ入った。
10年ほど前から、「静岡市には行っていないな」と、薄々気づき始めていた。やがて「今度何かあったら、行かなきゃ」と意識は変わっていった。
しかし、なかなかその「何かあったら」が来なかった。おそらくこれまで何十年も、同じように「何かあったら」が来なかったのだ。ということは、「自分の意志で旅行目的地として静岡市に向かわなければ永遠に行けない」と気づいた矢先に、静岡市への出張が決まった。世の中って不思議だ。
¶
私なりの一般論であるが、行政都市的な意味合いが強い県庁所在地は、観光するには少々退屈な都市が多い。
街の中心部には県庁舎や市庁舎があり、警察署、消防署、裁判所、地方銀行本店など、しゃちこばった公的施設とセットで、芝生に噴水などを設けた四角い公園があったりして、「清く、正しく、美しく」的な標語が似合いそうな建物が並ぶ。それら折り目正しさが、訪れる者には若干の窮屈さと、凡庸さを垣間見せるパターンが多い。
他方で各都道府県の2番手、3番手の都市は、建物も、そこに住む住民も相対的に肩の力が抜けた空気を漂わす。県庁所在地であれば、必死になって隠そうとする廃れた感じの建物や、妖しい空気もそのまま晒されていることが多く、退廃的な気分に浸りたい旅行者が、場末の飲み屋街などに入ると、妙に気分がマッチすることもある。
¶
さて、静岡市は想像以上に活気があった。どこまでも続く商店街は古き伝統と、新しさが混在し、散策が楽しかった。美味しい店も2軒ほど見つけた。
現在、NHK大河ドラマ「どうする家康」放映中ということもあり、晩年の徳川家康が隠居し、江戸初期には大御所政治(駿府政権)の中心地だった、駿府城公園にはぜひ行ってみたいと思っていた。
塔頂にドームをのせた国登録有形文化財の静岡市庁舎本館や、静岡県庁舎本館など趣深い建物を眺めながら駿府城公園に入った。市民憩いの場という雰囲気だったが、外国人旅行者の姿も多く、国際的にも徳川家康への関心の高さが伺えた。加えて、城がある(あった)都市は現在と過去の歴史が重層的に存在しており、時間旅行という別軸の旅も楽しめると感じた小旅行だった。
(編集長・増田 剛)