【特集 No.631】下呂温泉観光協会 E-DMOで持続可能なまちづくり
2023年3月31日(金) 配信
「下呂温泉観光協会」(瀧康洋会長、岐阜県)は、旅行新聞新社が取材活動などを通じて観光業界の取り組みの中から、創意工夫の見られるものを独自に選び、表彰する「日本ツーリズム・オブ・ザ・イヤー2022」(2022年12月11日発表)のグランプリを受賞した。エコツーリズムの理念をDMO(観光地域づくり法人)にプラスした「E―DMO」によって、地域や住民の一体性が生まれた。また、地域の魅力を“見える化”したことで、持続可能な発展が期待できる取り組みとして高く評価された。瀧会長に詳しい話を聞いた。
【木下 裕斗】
□エコツーの理念で地域まとめる 住民が魅力発掘し、ガイドも
――E―DMOとして活動する下呂温泉観光協会の取り組みについて教えてください。
下呂温泉観光協会は、下呂市全体のDMOとして活動しています。下呂地区をはじめ、萩原と金山、小坂、馬瀬の5地区で構成されています。5つの地区は2004年に下呂市として合併する以前は、別々の自治体でした。このため、住民の多くは近隣地区の観光資源ついて詳細に把握していませんでした。行政区分上は1つになりましたが、全体の活性化に向けては一致団結していなかったように思います。
これを踏まえ、地域全体で旅行者に魅力的な資源を提供することで、地域が活性化し、資源も守られていくエコツーリズムの理念を取り入れることで、地域全体の合意が得られると考えました。
地元自治体や旅館組合、各観光協会、各商工会、運輸事業者、漁業組合、自治会などに声を掛け、16年9月に下呂市エコツーリズム協議会を設立しました。
住民の皆様には新しい観光資源「地域の宝」を発見してもらい、自らの暮らしに誇りを持てるようにというのが最大のテーマでした。
その狙い通り、1054人が驚くことに地域資源2714種類を発掘してくれました。
――発掘された地域資源はどのように活用されたのですか。
下呂市エコツーリズム推進協議会では地域の宝を活用したフェノロジーカレンダー(暮らしの暦)や宝の地図を作成し、各地区が発表することで地域全体の連携・地域の誇りの醸成につながりました。また、既存の地域資源の再認識と新たな観光資源の発掘から商品開発も行いました。
温泉以外の資源を掘り起こせたことで、“新しい下呂市の価値”が生まれ、事業は良い方向に向かいました。
――住民の一体感はどのように高めましたか。
市民向けに500円と低価格で参加できるワンコインツアーを催行し、下呂市として合併する前の各町の魅力を認識してもらいました。具体的には川に入って流れを遡り、滝にも飛び込む、小坂地区の「小坂なシャワークライミング」などを催行しました。
ツアー終了後には、参加者へのアンケート調査を行い、事業改善に役立てています。
また、ツアーの質の向上を目的に人材育成講座を開講し、多様化するニーズに応えるため、新たな資源の発掘に活かしています。
また、新型コロナウイスの感染拡大を受け、安心してツアーに参加してもらおうと、20年6月にはこまめな消毒や3密回避などを定めたガイドラインを作成しました。業界としていち早く対応し、影響を最小限とすることが目的でした。
この結果、エコツーリズムの消費額はコロナ禍前の19年度が約3600万円に対して、20年度は約2400万円、21年度が2600万円とコロナ禍でも一定以上の収益を得ることができました。
また、資源や文化などを大切にする暮らしを考えるなど、エコツアーを通じて、参加者に環境問題への理解を深めてもらえることも大きな目的です。動植物や文化財の専門家を招き、地域の現状を評価してもらい、必要に応じて改善方法の提案を受け、自然保護にもつなげています。
18年4月には、こうした取り組みをまとめた全体構想を環境省へ提出し、エコツーリズム推進法の認定団体となりました。全国で14番目で、温泉地としては、初の認定でした。これにより、地域資源の保護や立入制限、広報などを支援していただいています。
これまで法的に保護措置が担保されてこなかった自然観光資源について下呂市が「特定自然観光資源」に指定することで、汚損や損傷、除去、観光旅行者に著しく迷惑をかける行為を禁止するなど、より厳しく保護措置を講じることができるようになりました。……
【全文は、本紙1898号または4月6日(木)以降日経テレコン21でお読みいただけます。】