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【精神性の高い旅~巡礼・あなただけの心の旅〈道〉100選】-その24-長崎本線(佐賀県―長崎県) 海を臨む鉄道の旅 鉄道と海辺の景色を楽しむ

2023年4月4日
編集部

2023年4月4日(火) 配信

 ここまで精神性の高い旅と称して心の内面と向き合える旅をしてきた。心が洗われる場所、静かに自分と対話のできる場所、先人の想いに触れることのできる場所、そのようなところを探し歩いてきたが、足は自然と寺社に向かっていく。

 

 しかし、精神性の高い旅は、寺社参詣と必ずしもイコールではない。寺社でなくても、静かに心の内面と向き合える場所はある。

 

 最近は赤字ローカル線の存廃問題が各所で議論になっている。新幹線ができたら、並行在来線は主要幹線であっても問答無用に第3セクター化されてしまう。新しくできた新幹線は、トンネル区間が多く、地上区間であっても、騒音対策のために防音壁に囲まれて、もとよりスピードも速いため、移り行く車窓の風景を楽しむこともなく目的地に着く。

 

 

 2022年9月23日に西九州新幹線が開業した。佐賀県内のルートが決まらないまま、長崎県内が先行開業した形だ。武雄温泉駅から長崎駅までの区間で暫定開業した結果、博多駅から接続特急「リレーかもめ」が運行を開始した。これは、博多駅から鹿児島本線を走り、鳥栖駅で分岐し長崎本線に入り、江北駅(読者の皆さんは肥前山口駅という名前の方が馴染み深いと思う。新幹線開業と同時に駅名を改めた)から佐世保線に入って武雄温泉駅で新幹線「かもめ」に同一ホームで接続する。長崎に行く乗客はこのルートを利用することになるのだが、既存の長崎本線は第3セクター化は免れたものの、電車運行が廃止され、気動車での運行となり、直通運転がなくなった。

 

 この海沿いルートの車窓からの風景が大変美しい。かつてはすべての長崎駅行き特急がこの海沿いルートを走っていた。長崎に向かう一つの大きな魅力でもあった。私は敢えて普通列車を乗り継いで、特急かもめの走らなくなった長崎本線の海沿いルートに乗った。

有明海が広がる長崎本線の多良―肥前大浦間

 有明海は干拓事業で全国的にも有名になったが、それだけ浅瀬が続く海である。海苔の養殖、牡蠣の養殖なども見える。海沿いを行く鉄道は数あれど、ここは堤防など視界を遮るものはなく、まさに砂浜の上を走っているような気持ちにさせる。

 

 肥前浜駅周辺では、菜の花とのコントラストが美しい。小長井駅付近になると、有明海の先に雲仙・普賢岳の荘重たる姿を見ることができる。

 

 普賢岳をぐるっと望みながら列車は進み、諫早へ、そして長崎へと至る。長崎に行くには、新幹線だと山あいを進んで考える間もなくあっという間に到着する。まったく考えを巡らせるきっかけもなければ時間もない。

 

 なぜ海辺を行くローカル鉄道は精神性の高い旅になるのか。それは人間の感覚がついてくるスピードではないだろうか。とくに長崎本線は海沿いでもう片方は山がせり出しているところが多く、くねくねと曲がりながら進んでいく。そうなると必然的に猛スピードは出せない。このほどよい速度が、私たちを心地良くさせているのではないか。早過ぎず、ちょっと遅いくらいがちょうどいい。

 

 このような精神性の高い旅に相応しい海沿いのローカル鉄道は長崎本線以外にもある。例えば、予讃線の海沿いの旧線の下灘駅周辺も味わい深い。とくに夕焼けの時間、夕陽が沈む情景は必見である。

三陸鉄道の堀内―白井海岸の風景。地元の人が海岸で大漁旗を振っている

 三陸鉄道の堀内駅と白井海岸駅の間の大沢橋梁付近も美しい。ここでは運転士さんが機転をきかせてしばらく停車し、車窓からの風景を楽しむことができる。ローカル鉄道でのんびりと海を眺める旅もまた色々な想像をかき立て、思索を巡らせることができる精神性の高い旅だ。

 

旅人・執筆 島川 崇
神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科教授。2019年「精神性の高い観光研究部会」創設メンバーの1人。

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