〈旬刊旅行新聞4月21日・5月1日合併号コラム〉――精神性の高い旅 旅に出て、何かを感じるだけで……
2023年4月28日(金) 配信
全国的に雨が降った4月の土曜日、ふと旅行がしたくなり、長野県・白馬村に向かった。天気予報では、日本列島の北から南まで雨の予報で、それだけでなく世界の主要都市のほとんどが雨という、地球上に雨が降り続いた日だった。
相模湖ICから中央自動車道に入っても、霧雨や強い雨のせいで鉛色の世界がどこまでも続いた。通常であれば、美しい山々を眺めることができる中央道だが、「私のような旅の上級者になれば、旅はむしろ雨の日の方がいいのだ」と強がって呟いた。
正午前には、安曇野市の大王わさび農場に着いた。安曇野市には2月にも訪れ、太田寛市長にインタビュー取材をしたのだが、何となく、再訪したくなったのだ。大王わさび農場で「本わさび飯」を食べた。長野への出張の際には、ここに立ち寄るほど、定期的に食べたくなる。わさびのソフトクリームも美味しいので、当然いただいた。
悪天候のためか、若干空室が残っていた白馬のホテルを目指した。白馬の美しい山々の景色が正面に一望できる客室だったが、やはり鉛色の世界しか見えなかった。安曇野の山々も見ることができなかったため、さすがに「安曇野や白馬は雨の日よりも快晴の方が良かったかな」と弱気になってしまった。
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けれど、翌朝、窓を開けると日差しが差し込み、北アルプスを覆う雲が時折遠ざかり、白馬連峰の美しい姿を見ることができた。これに気を良くして、「今日は戸隠神社まで行くぞ」と決心した。
どうして戸隠神社に行きたくなったかと言うと、本紙連載コラム「精神性の高い旅」で、石井亜由美氏が2022年11月1日号に「戸隠神社五社めぐり」(長野県長野市)を紹介していたからだ。「精神性の高い旅」は、島川崇氏と石井亜由美氏の2人に、交互に執筆していただいている。私はこのコラム欄の担当編集者にとどまらず、大ファンの1人でもある。
以前、島川氏が箱根神社(神奈川県・箱根町)を紹介した際には、翌週末に箱根神社を訪れた。石井氏が「袋田の滝と胎内観音&不動尊巡礼」(茨城県・大子町)を紹介された後には、袋田の滝に行きたくなり、初夏のある日、誘われるように行ったことを覚えている。
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「精神性の高い旅」という響きは、高尚でとても難解なイメージを持たれるかもしれない。しかし、「旅に出て、何かを感じる」だけで、大きなものを得られるのだと思っている。
そこに行くと妙に落ち着く場所であったり、1人きりで大自然に包まれて神秘的な気持ちになったり、壮大な歴史的建造物を目の当たりにして心が動くことがある。人によって違うと思うが、旅は肉体の移動だけでなく、心も体以上に動くものである。旅によって自分の内面と出会う瞬間が多く、あるいは自我を消し去ることもできる。
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さて、戸隠神社の奥社に向かって歩き始めると、スギの巨樹が続く杉並木が見えてきた。昨日降り続いた雨は上がり、神聖な光景だった。「ここに来たかったのだ」と、しばし足を止め、深呼吸を何度も繰り返した。それほど爽やかな、清々しい空気だった。奥社まで歩き、戸隠そばも見事に美味しかった。
帰りは中央道のみどり湖パーキングエリアでお決りの「山賊焼き」を食べて旅を終えたのだった。
(編集長・増田 剛)