「提言!これからの日本観光」 消えた〝フルムーン〟(?)
2023年5月27日(土) 配信
JRグループ各社は、1981(昭和56)年当時の「国鉄」が始めた〝フルムーンパス〟と命名された旅行商品の発売を昨年(令和4年)の秋から、休止している。
一部に〝消えたフルムーン〟などという題で、この商品を惜しむ声も聞かれている。確かに、約半世紀に近いこの種の商品としては異例の長命だったその歩みを振り返り、当時の関係者の1人として感慨深いものがある。
1981年当時の「国鉄」は経営収支の悪化で、経営の改革に迫られていた。そのための増収努力として、乗客(収入)増をはかるべく秋の観光シーズンに際して、国鉄全線のグリーン車フリーパスという当時としては、画期的な大型旅行商品を発売。乗客(収入)の増加を期待することとなった。
グリーン車利用という高級感と全線フリーパスという新しい魅力を備えたこの商品は、話題を呼び、販売実績も好調に推移し、ヒット商品となった。夫婦の年齢合わせて88歳以上の、年配カップルを対象に全国鉄線グリーン車有効のフリーパスを発売するという画期的なものであっただけに、売上も好調。〝フルムーン旅行〟ブームを招来するほどの人気商品となった。
「敬老の日」制定など敬老思想の普及が進んだ時代感覚にマッチしていたのも成功の一因であった。以後、毎年秋の恒例行事として、この〝フルムーンパス〟の発売は続き、大型高級旅行商品として半世紀近くの販売を続け、商品名の〝フルムーン〟(満月)が夫婦旅行の代名詞となるほどであった。
しかし、最近この商品の売れ行きに陰りが見られ、商品の限界が見え始めていた。
それは、敬老思想の普及。とくにお年寄りの夫婦旅行が、ひとつのブームにさえなったことを動機に、鉄道・旅行会社は競って春秋の旅行シーズンに、お年寄り向けのさまざまな旅行商品の設定や、敬老割引など季節限定のサービスの提供を始めた。〝フルムーン夫婦グリーンパス〟は、各種の敬老旅行商品との競争に晒されることとなり、売上にも陰りが見られるようになってきた。
JR各社は〝フルムーン夫婦グリーンパス〟の発売を休止し、お年寄り向きの旅行商品の品ぞろえを見直すとともに、新しい年齢別の商品体系を再構築することにしたと聞く。
一方、〝フルムーンパス〟を惜しむ声も多く寄せられているが、新しいお年寄り向けの旅行商品が造成されることへの期待も、依然大きいと感じられる。旅行という人の心を癒す(リフレッシュする)〝旅心〟に訴える商品ともいうべき〝フルムーンパス〟が、顧客のニーズの高度かつ多様化に対応する近代的な旅行商品として、脱皮すべき時代を迎えたのではなかろうか。
同時にこの商品発売の動機であった新しい「年齢別」旅行商品の企画と整備がその後、あまり進んでいないので、その発展も期待したいところである。
日本商工会議所 観光専門委員会 委員