〈旬刊旅行新聞6月1日号コラム〉――個人客に舵を切った旅館 施設は一新、滞在中のメニューづくりを
2023年6月1日(木) 配信
最近は、海外政府観光局が主催する観光説明会やパーティーが増えてきた。旅行業会社もようやく海外旅行の復活に向けて本腰を入れてきているようだ。
JTBがこのほど発表した 「2023年夏休み(7月15日~8月31日)人気方面ランキング」では、海外旅行(添乗員なし)は①ハワイ②グアム③韓国④シンガポール⑤台湾――が上位を占めた。いずれの国・地域も動き出しが早い。多種多様な特典を用意し、激しい誘客競争が始まっている。
コロナ禍の3年余りの間、私は日本中を旅した。これだけ国内に集中して旅行したのも久しぶりだった。たくさん旅行できたのも、さまざまな支援策があったことは大きい。人気観光地も空いていて、とてもお得に旅ができた。沖縄には何度訪れたか思い出せないほどで、たくさんの思い出ができた。旅から帰ってきて、酒を飲みながら、一つひとつ旅の思い出に浸るのも楽しい時間となっている。
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コロナの制限も緩和され、遅ればせながら、先日、期限の切れていたパスポートを再申請するための手続きに入った。
一般消費者にとって、旅先選びに海外の観光地も加わり、今後は国内の観光地と競合することになる。海外旅行も円安や、エネルギー価格の上昇といった影響でコロナ前よりも高くなっているため、割安感は薄くなったが、目的地として魅力的であることには変わりない。
一方、国内観光地に目を向けると、日本人が国内旅行に集中し、インバウンドの増加も相まって、旅館・ホテルの宿泊料金は驚くほど高くなった。
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多くの旅館・ホテルは、観光庁の「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」などの補助制度を活用して大規模なリニューアルを行った。使われなくなった大宴会場を個人客向けの客室や、食事処に作り替えるなど、施設は新しくなり、その分客単価も高く設定されている。
「単価アップ」は宿泊業界にとって大きな目標である。だが、宿泊料金が上がると当然、旅行者の期待値も高くなる。料理の提供の仕方も、作り置きの団体向けから個人客向けへと変えなければならない。味もうならせるものを提供しなければ満足させることは難しい。また、長い間、「1泊2食」のスタイルが旅館の主流だったが、これからは今以上に「滞在中の充実した過ごし方」が求められる。
温泉地であれば、滞在中に散策できる街並みも必要になる。雰囲気のあるカフェや、ショッピングが楽しめる店、自然との触れ合いを感じられる癒しの空間、刺激的なさまざまな体験メニューも欲しい。旅館が個人客に舵を切るということは、そういうことだ。
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地方の温泉旅館にとっても、日本人客と訪日外国人客といった区別はあまり意味がなくなってきた。日本人客よりも外国人客の方が、クレームが少なく、受け入れやすいという声も耳にするようになった。旅館のスタッフに外国人労働者がいることも当たり前の風景となり、その意味では、地方の温泉旅館も東京都心のホテルと同様に、国際化が進んでいる。ローカルではなく、グローバルな視点で日本の観光地が世界と比肩しうるような魅力的な存在であってほしいと思う。ハードは整った。滞在して楽しめる宿や、地域が全国各地に増えることを願っている。
(編集長・増田 剛)