津田令子の「味のある街」「豆大福」――群林堂(東京都文京区)
2023年6月10日(土) 配信
先日、街歩きの仕事で「ラジオ体操発祥の地」といわれる文京区・大塚公園を訪ねた。ラジオ体操が始まった1928(昭和3)年に開園したこの公園は、春日通り沿いから、ちらっと見える緑の深い公園で分かりやすい。石張りの奥の藤棚とともに露壇(バルコニー)もあり、モダンな雰囲気を漂わせている。
この公園から歩いて10分、有楽町線の護国寺駅5番出口から徒歩1分ほどの場所にあるのが、豆大福で有名な群林堂だ。創業1916(大正5)年。音羽で営業を始め今も行列のできる店として脚光を集めている。この界隈には、真言宗豊山派大本山・護国寺を北にして寺社やお茶の水女子大学をはじめ多くの学校が点在する文教地区だ。
マンションの1階にあるカウンターだけの小さい店には、すでに行列ができていた。看板商品のそれを買うのに20分ほど並び、手に入れる。大通り沿いで日除けも風除けもないので真夏と真冬に並ぶのは結構つらい。ゲットするにはそれなりの覚悟が必要だ。厳しさを少しでも和らげるために扇子と日傘、マフラーと手袋あれば耳あてを持って並ぶことをおすすめする。通りを挟んで斜め向かいには講談社が数軒先には大塚警察があるので、場所はわかりやすい。
ここの「豆大福」は、作家の吉川英治、三島由紀夫、松本清張への手土産として愛用されたと記されている。
つぶ餡を包み込むしっとりもっちりの餅には、富良野産の赤えんどう豆が、ごつごつびっしり埋まっている感じ。餡の甘さは豆の塩分とあいまって心地よい。その日に作ったものは、その日に売り切るというコンセプトを貫き、日持ちは当日限りを誠実に謳っている。
お土産とは別に大抵バラで2個買うことにしている。白い小さな袋に入れてくれるので、そのうちの一つを、家まで待ち切れず30秒でぺろっと食べる。このとき、口の周りの粉を拭き取ることを忘れてはならない。もうひとつは、つぶさないように持ち帰ってお茶のお供に、黒文字なんぞを使ってお上品にじっくり味わう。これが群林堂の豆大福の楽しみ方だ。
(トラベルキャスター)
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。
群林堂の豆大福は、本当に美味しい!
並んでいる時のソワソワした感じも堪らない。