「観光革命」地球規模の構造的変化(259) グローバルサウスの底力
2023年6月18日(日) 配信
広島市で開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)が無事に終了した。第1回目の先進国サミットは米英仏独伊日の首脳が参加して1975年にフランスで開催され、その後にカナダが加わったG7サミットが毎年開催されてきた。
G7諸国は長らく世界の国内総生産(GDP)の6割以上を占めてきたが、21世紀に入ってから比率が低下している。そのため99年からG20首脳サミットが開催されている。G7諸国のほかに、中国とロシア、インド、ブラジルなど新興国首脳の参加によるサミットだ。
今回のG7サミットにはウクライナのゼレンスキー大統領が対面参加して各国首脳と面談し話題になった。一方で今回のサミットを通して、国際社会で重要性を増している「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国の底力を思い知らされることになった。今回はインドとブラジル、インドネシア、ベトナム、コモロ、クック諸島などのグローバルサウスの首脳が招待されていた。
グローバルサウスの代表格インドは今年1月に「グローバルサウスの声サミット」をオンラインで開催し、125カ国が参加した。グローバルサウスの多くの国々は西側諸国の対ロシア経済制裁に参加しておらず、ロシアとも中国とも友好関係を維持している。米欧と中露のいずれの勢力にも肩入れをせずに、双方から譲歩を引き出すという、したたかなバランス外交を展開する国々が多い。
今回のサミットに招待されたインドは日米豪印の連携枠組み「クアッド」に加わりながら、中露主導の「上海協力機構」のメンバーでもある。インドのモディ首相はゼレンスキー大統領と会談してウクライナの窮状に理解を示す一方で、ロシアから安価な原油を輸入し続けると共に武器輸入も行って友好関係を維持している。
今年9月上旬にはG20首脳サミットがインドのニューデリーで開催され、G7や中国、ロシア、グルーバルサウスの首脳が一堂に会する。議長を務めるモディ首相の力の見せ所になる。
世界はすでに「Gゼロ(世界の政治経済を主導する国家が存在しない状態)」が現実化しており、今後はグローバルサウスの国々の動きに注目する必要がある。近未来において国際観光の面でもグローバルサウスの国々の役割が重要になるだろう。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。