広域観光周遊ルート形成へ、地域連携の可否が最大の課題 (観光庁)
観光庁は、複数の都道府県に跨るテーマ性・ストーリー性を持った魅力ある観光地による「広域観光周遊ルート」の形成を促進し、海外へ積極的に発信していく。2月19日には、広域観光周遊ルートに関する方針や計画を検討する「世界に誇れる広域観光周遊ルート検討委員会」の第1回を開催。地域連携の重要性とその難しさなどについて、多数の委員から課題提起された。
【伊集院 悟】
広域観光周遊ルート形成に関する事業には14年度補正予算で2・5億円、15年度予算案では3億円強を計上。希望する広域地域はまず、都道府県や市町村、観光関係団体、経済団体、旅行会社、交通事業者などから成る協議会を設置し、管轄の地方運輸局からの助言を踏まえ、(1)計画策定とマーケティング(2)受入環境の整備と滞在コンテンツの充実(3)対象市場への情報発信とプロモーション――などの広域観光周遊ルート形成計画を策定する。検討委員会を踏まえた国による認定後、国が事業費用の一部を負担し、関係省庁や関係機関を交え、観光庁がパッケージ支援していく。
検討委員会冒頭で、西村明宏国土交通副大臣は「国をあげて地方を元気にすることを掲げており、日本を訪れた観光客がゴールデンルート以外の地域にも訪れるようにしたい。点から線、面として捉え、各地の良さをつなぎ合わせて発信できるよう、委員の皆様の知恵を借りたい」と述べた。
委員会では、多くの委員が地域間連携の重要性を強調する一方、その主体である自治体間の連携の難しさを指摘。日本旅行業協会会長の田川博己氏は、これまでの広域観光への取り組みから「点から線にはなるが、そこから面にするのが難しい。これまでは隣接県同士で議論する場もなかったので、地域連携がポイントになる」と地域連携の重要性を強調した。ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長の嶋津昭氏も「自治体間の壁」を指摘し、「観光は自分の所を売ろうとするもので、自治体間の壁を超えるのは非常に難しい。消費者目線を大切にして、いかに自治体間で連携できるかが鍵になる」と述べた。
これに対し、旅行ガイド出版社社長の石井至氏は「自治体間の壁を超えるには、横断的な上位組織の存在が必要になる」と、地方運輸局の活用をポイントに挙げた。観光庁の久保成人長官も、「これまでは隣接する自治体や知事同士が連携に前向きではなかった」とし、委員や自治体の協力を促す。
では、どのような周遊ルートが望ましいのか――。日本観光振興協会会長の山口範雄氏は(1)日本を表象するテーマ性とそのターゲット(2)連携したアクセスの設定(3)市町村間の横断的な連携(4)観光人材の育成(5)事前情報の発信と訪日後の情報伝達の仕組み――などを具備する要件として挙げた。
田川氏はさらに、海外旅行商品において周遊ルート造成を50年間続けてきた旅行会社などの海外旅行商品造成の知見の取り込みも提案。トリップアドバイザー代表の原田劉静織氏は日本人と外国人、アジア人と欧米人の視点の違いを意識したうえでの広域ルートづくりを説いた。
そのほか、インバウンド先進国との比較のなかでの国際競争力を持つことの難しさも指摘され、母国語で発信できる親日的な留学生や外国人英語教師、外国人就労者の活用なども提案された。
久保長官によると、補正予算分で地域の実情や訪日外国人のニーズなどの基礎調査を行い、15年度事業へつなげていくという。今後は3月末の委員会で基本方針を固め、4月からの公募開始を目指す。
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世界に誇れる広域観光周遊ルート検討委員会の委員は次の各氏。
【座長】小林栄三・日本貿易会会長
【副座長】石田東生・筑波大学システム情報系社会工学域教授
【委員】石井至・石井兄弟社(旅行ガイド出版社)社長▽岩沙弘道・東日本高速道路会長▽太下義之・三菱UFJリサーチ&コンサルティング芸術・文化政策センター長▽大塚陸毅・日本経済団体連合会副会長観光委員長▽篠原文也・政治解説者/ジャーナリスト▽篠辺修・定期航空協会会長▽嶋津昭・ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長▽田川博己・日本旅行業協会会長▽豊田三佳・立教大学観光学部交流文化学科准教授▽原田劉静織・トリップアドバイザー代表▽矢ケ崎紀子・東洋大学国際地域学部国際観光学科准教授▽山口範雄・日本観光振興協会会長