〈旬刊旅行新聞7月1日号コラム〉――リクガメとの生活 「ペットの世話」と「旅行」のジレンマ
2023年7月1日(土) 配信
家に来て2年半になるリクガメが可愛くて仕方がない。先日、隣の部屋にいたはずなのに、私が冷やしトマトをつまみに、ビールを飲んでいたら、丸い背中でノコノコと近くまで寄ってきて、「トマトが欲しい」と首を伸ばしてせがむ。リクガメは想像以上に鼻が利くのだ。最近一番の好物は、トマトとブロッコリーで、モロヘイヤも良く食べる。
私自身、モロヘイヤなんてほとんど食べて来なかったが、リクガメとの生活が始まってからしばしば食卓に並ぶようになった。リクガメの到来でチンゲン菜やサニーレタス、小松菜などを食べる機会が増え、野菜中心の食生活に変化して、結果的に良かったのかもしれない。
好奇心旺盛なリクガメであるが、臆病者でもある。外出して家に誰もいない間、あまり動かずに、オシッコやウンコも我慢していることが多い。いつも世話をしてくれる人間が帰宅すると安心するのか、近くに来て尻尾を動かして続けざまにする。排泄の瞬間は最も無防備のため、生物にとって危険な瞬間である。2億年もの間、外敵から身を守り続けた歴史と記憶がそのような行動をさせるのだろう。
家に来たときにはまったく想像もできなかったが、リクガメの考えていることが少しずつ分かるようになってきた。信頼関係も深くなりつつある。
癒され、心が通い合う瞬間を感じ取れる喜びがある一方で、「長期の旅行がしづらくなる」という新たなジレンマが生まれ、頭を悩ませている。
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ようやく子供たちが育ち上がったので、「念願の旅行三昧の日々が到来する」と思った矢先に、リクガメ君のことばかりが気になって、長期の旅行が簡単ではなくなってきた。
九州の実家も、マメ柴を飼い始めてから、まったく旅行をしなくなった。
コロナ禍の間に、ペットを飼い始めた家庭も多いのではないだろうか。ペットホテルなども多くなってはきているが、「預けるのには抵抗がある」というオーナーの気持ちも、分かってきた。
旅行というのは、さまざまな条件が合ってこそできるもので、一つひとつの旅行をもう少し噛みしめて、大事にしていこうという気持ちになる。
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旅行をするときにペットの世話をしてくれる「信頼できる人」の有無によって、旅行できるかどうかが決まってくる。
夫婦で旅行する場合は、2年半前にリクガメを買って来た息子に数日間預けるか、休みの日に来て世話をしてもらおうと考えているが、それだって結構大変だ。
だが、リクガメの世話をするのは、基本的に1人いればいいのだ。とすると、私か妻かどちらかが家にいれば、問題ない。
最近妻にとっても、1人の方が楽だということをちょいちょい仄めかす。そうなると、必然的に1人旅の機会が増えることを意味する。
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1人旅といえば、オートバイでどこかに行きたくなる。私は年間平均で約7000㌔オートバイに乗っている。だが、今年は半分を過ぎようとしているのに、まだ2000㌔ほどしか走っていない。長いコロナ禍の間、地道に手を入れ、メンテナンスもしてきた。あとは、夏にリクガメ君を数日間妻に任せ、日本列島を北上するオートバイの旅を夢見ている。
(編集長・増田 剛)