〈旬刊旅行新聞7月11日号コラム〉――旅の原点 雨露をしのげ、料理があるだけで感謝
2023年7月11日(火) 配信
この数日、東京はとても暑い。これから先も長く暑い夏が待っている。夏の間、「どこか避暑地に行きたい」という想いが日々強まりつつある。
天気予報で真夏の日本各地の気温を見ていると、埼玉県の熊谷市や群馬県の舘林市など内陸部よりも、沖縄県の方が低い日も多くある。海渡る風によって涼しく過ごせるはずだと思い、「これからは避暑地として沖縄に行こう」と昨夏、あえて沖縄に行った。
しかし、真夏の沖縄の太陽をナメていた。「九州は太陽が近い」と帰省の度に感じていたが、沖縄の太陽はもっと近かった。だから今年は夏に沖縄に行くのはやめて、“本当の避暑地”を探すつもりだ。
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避暑地といえば、北日本を思い浮かべるが、いくら緯度が高くても札幌市や小樽市などは、北海道とは思えないほど暑い日がある。そうすると、緯度よりも標高が高い山岳や高原リゾートが選択肢となる。
九州に住んでいたときにも、山岳エリアである阿蘇山や由布岳、英彦山周辺は涼しいなと感じたものだ。夏でありながら、冷房機器に頼ることなく、早朝や夕方に涼しくなるなんて、とても贅沢な気分にさせる。
東日本大震災後には、電力不足の危機に襲われた。「夏は電力消費を抑えるためにもできるだけ涼しい場所で過ごそう」という機運が高まり、長野県などの高原リゾート地は、夏の合宿や長期滞在などを積極的にアピールしていた。
今夏も、電気料金の高騰など同様な環境にある。率先して避暑地を目指そうと思う。
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さて、自分なりに真夏に過ごす理想の避暑地を定義すると、「標高が高い」「価格が低い」「誰もいない」だ。どうだろうか。
逆を考えてみると、「標高が低い」「価格が高い」「人混みに埋もれる」場所で真夏を過ごすのは、ちょっとつらい。夏に人気観光地に行くことはもうないかもしれない。コロナ禍の3年間に、閑散とした有名観光地をたくさん訪れていてよかったと思う。
コロナ禍後の旅行市場の傾向として、旅館やホテルの宿泊料金の高騰がある。円安も手伝ってインバウンドが急速に戻りつつあるなか、「グレードの高い客室から埋まっていく」という話もしばしば耳にする。中止されていたイベントやお祭りも再開され、ビジネス出張も増え、都市部や人気観光地では予約が取れない動きも出てきている。
海外旅行の割高感に加え、可処分所得が増えない多くの日本人にとっては、国内旅行についてもコスト高はしばらく続きそうだ。
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ツーリングの動画などを見ていると、職業柄「この人はどこに泊まるのだろう」と気になる。ラグジュアリーホテルや、高級宿などではなく、建て替えなどの余力が無く、目立たない旅館やホテルに宿泊するパターンが多い。一見、目立たない宿は淘汰されていくように思えるが、しっかりと存在意義があるから営業を続けている。旅人も宿も一様ではなく、千差万別。無名の宿であっても、一流ホテルを超える満足感を得られることも、旅の面白さだ。
宿泊料金が安いと、事前期待はそこまで高くない。雨露をしのげ、料理が提供されるだけで感謝の気持ちになる。そのような旅こそ、旅の原点のような気がする。
(編集長・増田 剛)