東旅協 ムスリム受入セミナー開く
“できることから対応を”、情報開示し選択を委ねる
東京都旅行業協会(駒井輝男会長)は3月10日、東京都内でASEANからの訪日客とムスリムの受け入れに関するセミナーを開き、会員45人を含む、約100人が集まった。講師の日本アセアンセンター観光交流部の神田瑞穂氏は、ムスリムの受け入れについて、可能な対応を情報開示し、相手に選択してもらうようアドバイス。さらに、受入対応を段階に分けて、できることから始めるよう説いた。
【伊集院 悟】
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今回のセミナーでは、会員旅行会社以外にも門戸を開き、ホテル・旅館や観光施設などの受入施設を中心に観光業界関係者約100人が集まった。駒井会長は冒頭のあいさつで「昨年の訪日外国人観光客数は1340万人となったが、そのうち160万人がASEANから来ている。ASEANにはムスリムも多く、ムスリムについてもう少し勉強しようと今回のセミナーを企画した」と同セミナーの意図を語った。
14年のタイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムからの訪日客総数は前年比39・4%増の160万2200人。ASEANからの訪日客増加の要因には、経済成長やLCCの普及、ビザ緩和、円安などがあげられる。神田氏によると、これまではASEANからの訪日客は中国系の華僑が中心だったが、LCCの普及によりムスリムも増加し、「初めて乗る飛行機がLCCという人も多い」という。
イスラム教では豚と豚由来品、アルコールの禁忌が有名だが、ラード、乳化剤、ショートニング、ゼラチン、豚骨スープなども豚由来品にあたり、料理酒やみりんもアルコール分を含むため禁止されている。また、豚肉以外でも、資格を持った人がイスラム法に基づき食肉処理した「ハラール肉」しか食べない人や、さらにキッチン、調理器具、食器などをノンハラールと分けたハラール環境で調理されたものしか口にしない厳格な人もいる。神田氏は、「厳格さには個人差があり、ハラール認証はハードルが高いので、できることから対応していく」ことを勧める。
神田氏は対応を3段階に分け、取り組みを紹介。まずは第1段階として、豚肉と豚由来品、アルコールを提供しないことと、食材が分かるよう「no pork」「no alcohol」などの英語表記や絵で表すピクトグラム入りのメニューを準備することをあげる。この場合、「ハラール肉」ではないので、誤ってハラールという言葉を使わないよう注意が必要だ。
次に第2段階として、ハラール食材の使用と、モスクやハラールレストランの情報提供、礼拝用マット・コンパスの貸し出し、必要に応じてのツアー中のお祈りの時間と場所の確保などをあげる。メニュー表示は「ハラールメニュー」ではなく、あくまでも「ハラール食材の使用」と表現した方がよい。「ハラールメニュー」と言ってしまうと、ハラール環境で調理されたものだけを指すからだ。また、礼拝については通常は1日5回だが、昼間に行う2回目と3回目、日没以降に行う4回目と5回目をまとめて行う人もいるので、昼間に行う1回を想定しておくとよい。ただし、旅行中はお祈りをしない人もいるので、こちらから強要はせず、お祈りの時間と場所の確保については相談することを勧める。第3段階には、ムスリムの雇用や、ハラール環境に近づけるなど、ハラール認証の取得があげられる。
神田氏は「旅行中は(イスラム教の仕来たりについて)穏健になる人もいるので、こちらで勝手に先回りしないほうがよい」とアドバイス。また、対応には幅があるので、「どの程度の対応が可能かを情報開示し、相手に選択してもらうのがよい」と説いた。
そのほか、犬も不浄のものとされ、人形は偶像崇拝にあたるので好まれないことなども紹介した。キティちゃんなどデフォルメされたマスコットなどは問題ないという。