【特集 No.639】LGBT理解増進法施行 宿泊4団体で統一指針の策定を
2023年7月20日(木) 配信
政府は6月23日(金)、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(LGBT理解増進法)を施行した。同日、厚生労働省は各都道府県・保健所設置市・特別区の衛生主管部(局)長に対し「公衆浴場や旅館業の施設の共同浴室における男女の取扱いについて」を通達した。施行同日、日本旅館協会政策委員長の永山久徳氏に、統一指針策定の重要性や、想定し得る事例、トラブルが発生した際の業界としての対応策などについて聞いた。
【聞き手=増田 剛編集長、構成=馬場 遥】
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安心・安全な温泉を守るために
□厚労省、各自治体へ通達 訴訟ビジネスの対抗策
LGBT理解増進法施行日の6月23日(金)、厚生労働省が都道府県内保健所設置市などに通達した「公衆浴場や旅館業の施設の共同浴室における男女の取扱いについて」では、「公衆浴場における衛生等管理要領」「旅館業における衛生等管理要領」において、「おおむね7歳以上の男女を混浴させないこと」と定めていることを確認している(左図参照)。
文書内では、「これらの要領でいう男女とは、風紀の観点から混浴禁止を定めている趣旨から、身体的な特徴をもって判断するもの」としている。これを踏まえ、各自治体には、管内の浴場業・旅館業の経営者に対する周知や指導への配慮を呼び掛けた。
また、この通達に法的な強制力はなく、あくまで「技術的な助言である」とした。
今般の法案によってまず懸念されたのは、「男性が女性を自称しさえすれば、女性用のトイレや公衆浴場に入れるのではないか」といった点だ。
「公衆浴場法」には、「営業者は(中略)風紀に必要な措置を講じなければならない」とあり、公衆浴場・旅館業の衛生等管理要領には混浴禁止の記述がある。これはほとんどの都道府県の条例にも適用されており、銭湯やスパなどで施設管理者の制止を振り切って侵入すれば、公然わいせつ罪や建造物侵入罪に当たる。
しかし、旅館は公衆浴場法を適用していないところが圧倒的に多く、基本的には旅館業法を適用している。
公衆浴場法の対象外であることを知った悪意ある利用者が、外見上の性別とは逆の風呂に入りたいと主張を通したいときに、旅館側は前述の「管理要領」に男女と記載があることのみで対抗しなければならない。
また、新型コロナが感染拡大した影響で、その他の宿泊客やスタッフの感染症対策の観点から旅館業法が改正された。明らかに「特定感染症に感染している場合」や「宿泊客がほかの客へのサービス提供を著しく阻害するような過大な要求を繰り返す場合」は宿泊拒否が可能としている。
これらが例外的に宿泊拒否できるケースであり、旅館は原則、宿泊拒否はできない。
旅館業法が制定されたのは戦後まもなくの1948(昭和23)年であり、宿泊施設が世の中のセーフティネットの代表として扱われていた時代だ。この名残から、旅館業法だけが昔の時代背景を基準に義務を課せられていた。
コロナ禍をきっかけに、ほかの客や従業員の安心・安全を守る観点から、宿泊拒否の項目などが改正された。
考えられるケースとして、永山氏は「宿泊予約を入れる際、男性客が女湯に入る旨を宣言したとき、咄嗟にスタッフが宿泊拒否に取れる言葉を言ってしまうと、『宿泊拒否だ。法律に反しているだろう』と訴訟ビジネスに持ち込まれる可能性もある」と指摘する。…
【全文は、本紙1907号または7月27日(木)以降日経テレコン21でお読みいただけます。】