「人材教育の遅れ」指摘、MICE人材育成など議論(横浜商科大)
横浜商科大学は2月26日、文部科学省の委託を受けて取り組んできた「地域産業活性化のためのインバウンド観光人材育成」の事業成果報告と、「MICE 人材育成の未来」と題するパネルディスカッションを開いた。各パネリストから、海外に比べて人材教育が遅れているなどの指摘があがった。
【伊集院 悟】
◇
2部で行われたパネルディスカッションでは、横浜商科大学貿易・観光学科の宍戸学教授をコーディネーターに、多摩大学グローバルスタディーズ学部の市岡浩子教授、日本政府観光局(JNTO)コンベンション誘致部の川﨑悦子次長、川島アソシエイツの川島久男代表、プリンスホテルの徳永清久執行役員が登壇し、「MICE 人材育成の未来」をテーマに議論した。
川﨑氏はMICE拡大の効果として(1)全国に波及する経済効果(2)研究者のトップが集まることによるイノベーションと新たなビジネス機会の創出(3)メディア露出やインフラ整備など地域の競争力とブランド力の向上――をあげる。人材教育については、香港などの事例を紹介し、海外ではMICEと観光を区別した実践的なプログラムによる人材育成が行われていることを報告した。
MICEコンサルタントとして40年にわたり国内外で活動する川島氏も「MICEは観光の延長ではない」と、自治体やコンベンションビューローなどのMICE誘致主体が、MICEと観光振興を混同していることを指摘。「大会議は何年も前に開催が決まるので、MICEは5年10年スパンで考えないといけない」と述べ、1、2年で交代してしまう人材のローテーションについても問題提起した。また、「MICEに関係する団体を横断的に見られる組織が必要」と訴え、その組織が人材教育やMICEの啓蒙、国への政策提言などを行うべきとした。産学連携に関しては、海外では8―9カ月にも及ぶインターンシップが行われていることを紹介。「企業が大学に投資している」と、日本との違いを指摘し、大学には教育だけでなくMICEの研究も行うよう求めた。
徳永氏はプリンスホテルグループでのMICEへの取り組みを紹介。ホテルから見るMICEの特性として、(1)予約の時期が早い(2)滞在期間が長い(3)観光以外も含めて消費額が大きい(4)季節変動がない(5)催行が保証されやすい(6)景気に左右されにくい――などをあげる。早期予約については「国際会議なら5―7年、学会なら2年前に決まる」と紹介し、収入のベースができ開催までに運営の準備ができることや、予約ベースができることで直近の予約を高単価で販売できることなど、利点を説明した。
観光教育学で博士号を持つ市岡氏は、アメリカやシンガポール、香港などと日本を比較し、産学官の連携の弱さや経営学の視点が欠けていることを指摘。「日本は総合的視点からの観光学カリキュラムばかりで、経営学の視点が欠けているとの指摘をよく受ける」と紹介し、「海外では、インターンでの実務経験が必修化されるなど産学官の強靭な連携がある」と語った。教育機関の役割として(1)MICEに関する周知と知識技能の取得(2)英語コミュニケーション能力(3)「グローバル人材」「国際交流」「国際理解」などの視点からの展開――について言及し、実務経験の場の提供やMICEに関するPRなども大学が行うべきことに挙げた。
パネルディスカッションに先駆けて行われた第1部の「地域産業活性化のためのインバウンド観光人材育成」の事業成果報告では、インバウンドやMICE人材要件調査の報告や、eラーニング教材の紹介、MICE教育カリキュラムとモデル授業報告などが行われた。なお、同大学は4月に観光マネジメント学科を開設する。