〈旬刊旅行新聞8月1日号コラム〉団体旅行復活へ――送客・受入両方が根を張って存在する
2023年8月1日(火) 配信
コロナ禍の制限がなくなり、まちや観光地が活気を取り戻しているのはいいことだが、よく利用するスーパーマーケットや、居酒屋、飲食店などは、「スタッフ急募」の貼り紙が入口付近にずっと掲示されている。
時給を見ると、最低賃金レベルのところが多く、「この時給ではなかなか人は集まらないだろうな」と思う。原材料費の高騰や、エネルギーコストの上昇など、経営者にとっては逆風ばかりの状況で、時給を上げることもままならないことは容易に想像できる。
帝国データバンクがこのほど実施した、企業の「正社員・アルバイト」従業員動向調査によると、総従業員数が「減少(戻っていない)」した割合が最も高かったのは、ホテル・旅館などの「宿泊業」で、62・4%と約3分の2を占める。2番目は「飲食店」で58・3%という結果となった。3位は「娯楽業(パチンコホールなど)」だ。
一方、総従業員数が「コロナ前水準(減少の割合が低い)」だった業種は、「医療業」がトップ。2位は「自動車・自転車小売」、3位は「農林水産」、4位は「職別工事」、5位は「専門サービス」と続く。
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人手不足は、コロナ禍の前から宿泊業や飲食業で大きな問題となっていた。従業員がいないため、やむなく満館にせず予約を制限する宿や、アルバイトがいないために夕方から店を閉める飲食店も見受けられた。
その人手不足の状態のまま、突如新型コロナウイルスの感染が拡大し、およそ3年間にわたり行動制限が繰り返し出され、宿泊業界や飲食業界から多くの人材が離れていった。
団体客を安く受け入れる宿泊業界は薄利の代表格だったが、近年は「高付加価値化」事業に向けた補助制度などを活用して、使われていない宴会場を、客単価の高い個人化に切り替えて、客室や個室食事処に改修し、宿泊単価を高めていく動きが一層加速している。宿泊客の満足度が上がり、利益が増えた宿は一定の成功を収めたと言える。
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最近は個人や小グループの旅行がコロナ禍前と比較して遜色ないほど回復している。他方でコロナ禍で最も大きなダメージを受けたのは、団体旅行だ。
コロナ禍で団体旅行が完全に消失したため、「団体客を捨てる」決断の“最後の一押し”となり、大広間を潰した宿は多い。1つの方向性として、勇気ある決断として尊重したい。
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一方で、3年間一度も使われなかった宴会場を、さまざまな葛藤の末に残し、団体旅行の復活を期待する宿も全国にたくさんある。
旅行業界には、「旅行会社が団体客を旅館に送客する」という主軸があった。旅行会社と車の両輪として旅館や土産物施設、その仲介的な役割として案内所などが存在し構成されていた。やがて個人化やIT化が進み、一般旅行者がスマートフォンを片手に宿や航空券、新幹線などを予約する流れが主流となり、業界の人と人の結び付きは、年々薄くなりつつある。
団体旅行の復活へ徐々に動きが出ているなかで、先日、団体客を受け入れている旅館経営者の生の声を聞く機会があり、久しぶりに旅行業界らしいなと、新鮮な感じがした。団体旅行を扱う人たちは今もしっかりと根を張って存在している。団体を送客する旅行会社と、受入側の旅館や、土産物施設を応援したい。
(編集長・増田 剛)