「観光革命」地球規模の構造的変化(261) 万博と縄文と国宝
2023年8月5日(土) 配信
大阪府・市は2025年に「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマにして、国際万国博覧会を開催予定である。ところがパビリオン建設の遅れが深刻化している。とくに海外の参加国・地域が建設するパビリオンでは、工事に必要な大阪市への申請が7月末現在でいまだにゼロ。
建設資材の高騰や人手不足などでゼネコン業界の利幅が縮小するなか、業者側はパビリオン受注に慎重になっていることが原因だ。そのため予定通りの万博開催を危ぶむ声がささやかれ始めている。
「人類の進歩と調和」をテーマにして1970年に開催された大阪万博は6422万人が入場し大成功を収めた。大阪万博のシンボルになったのは「太陽の塔」であり、前衛芸術家の岡本太郎氏がデザインした。高さ約70メートルの太陽の塔は今でも大阪郊外千里丘陵の万博記念公園にそびえ立っている。
岡本太郎氏は1930年からのフランス遊学後、兵隊として中国出征し戦後に帰国。当時の日本美術界を批判し、新しい芸術の創造を模索していた51年に東京国立博物館で縄文火焔型土器を見て「心身がひっくり返る衝撃を受けた」と告白している。岡本氏は「伝統的な日本の美」とは異質な「縄文の美」に衝撃を受け、それを原動力として新しいジャンルを開拓した。
北海道博物館(札幌市厚別区)で特別展「北の縄文世界と国宝」が10月1日まで開催されている。世界各地の先史文化とは異なり、縄文文化は約1万年にわたって採集・漁労・狩猟を基盤とする定住生活を実現した稀有な文化である。
特別展では、多くの国宝や重要文化財が展示されている。国宝は、中空土偶(北海道函館市)、黒曜石製石器(同・遠軽町)、縄文の女神(山形県・舟形町)、火焔型土器(新潟県十日町市)、縄文のビーナス(長野県茅野市)、仮面の女神(長野県茅野市)など(但し国宝の実物展示は個々に期間限定なので要注意)。重要文化財の土器、土偶、岩偶、土版、鹿角製櫛なども常時多数展示されている。
国民の宝物である国宝や重要文化財は鑑賞する人の心を強く惹きつける魅力が秘められている。岡本太郎氏をお手本にして、この夏に北海道を訪れ、「北の縄文世界と国宝」展を通して、自らの芸術心をリフレッシュさせてみてください。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。