官民一体で旅館を改装 所有と運営分け生産性向上 (巛―sen―湯河原)
2023年8月9日(水) 配信
官民一体で面的な整備が進められている神奈川県・湯河原町に7月12日、「巛―sen―湯河原」が開業した。
老舗旅館を官民一体のプロジェクトの一環で改装した宿。施設の所有と運営を分離させることで運営を効率化させ、宿泊施設への投資の呼び込みや生産性の向上を目指す。同プロジェクトによるまちの変化や、現状、未来像を取材した。
□源泉100%の温泉と眺望、酒を楽しむ宿
「巛―sen―湯河原」はオールインクルーシブを導入しており、室内ワインセラーに並ぶ国産ワインや地酒から好みの1本を選ぶところから滞在が始まる。客室数は眺望が異なる5タイプ22室。全室源泉100%の温泉が楽しめる。温泉と眺望、酒を心ゆくまで堪能できるよう、室内冷蔵庫に日替わりでメニューが変わるアペリティフボックスを用意するほか、夜食も提供。滞在時間を十全に楽しめるよう室内空間の快適性を追求した。
夕食は、県産食材を主役とする「日本の食文化を巡る」がコンセプトのコース料理を提供する。朝食は、旬のおかず9種と干物が楽しめる。
□明治18年の旅館を持続可能な温泉宿に
「巛―sen―湯河原」は、1885(明治18)年創業の「亀屋旅館」を「湯河原エリアをモデル地域とした持続可能な温泉旅館街の構想策定プロジェクト」の一環でリニューアルした宿で、30―40代のハイエンド層をターゲットとする。
同プロジェクトには、湯河原町やさがみ信用金庫、三島信用金庫、日本政策金融公庫、地域経済活性化支援機構(REVIC)、観光庁などが参画。小規模経営困難旅館を複数取りまとめたうえでリノベーションし、一括で運営委託することで収益性の向上をはかる。
昨年10月には、本と夢をテーマに掲げる旅館「夢十夜」を開業。20―30代の女性をメインターゲットに据え、若い客層の取り込みを進めている。
面白い宿を通じてまちに人を集める
「巛―sen―湯河原」と「夢十夜」の運営は、同町で年配層をターゲットとする「白雲荘」とあわせてリアルクオリティ(東京都渋谷区)が行う。ターゲットの違う宿を同じ地域で3館運営する狙いを、小林豪代表は「色々な層を取り込み、まちに人を集めること」と説明し、「巛―sen―湯河原のような面白い宿を認知いただくことで、まずは湯河原が注目される状況を生み出したい」との考えを示す。また、今回のようなカタチでの宿の再生に関しては、「リスクの低減や融資が受けやすくなることが利点」という。
□湯河原の取り組みを他地域の先進事例に
「巛―sen―湯河原」の開業で終了となる今回のプロジェクト。さがみ信用金庫湯河原支店の葊瀬真支店長は「観光庁の『地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化事業』を活用し、2022年に旅館20軒、飲食店9軒が改装を実施。23―24年には宿泊施設27軒、飲食店29軒で改装が進められている。こうした流れが生まれた要因の一つが今回の温泉街の再生だと思うので、他の地域にとっても先進事例になるのではないか」と総括した。
湯河原町役場観光課の宮下睦史課長は「面的整備を続けながら、美味しい食やここならではの体験を提供し、宿泊時の満足度を上げることでリピーターを創出することが次の段階。日本の原風景や自然の魅力に触れられる環境を深化させ、歴史に逆らわない湯河原らしいまちづくりを進め、地域を発展させていく」と力を込める。