好調なインバウンド ― 「観光立国」の政策は順調だろうか
今年2月の訪日外国人数は138万7千人。出国日本人数は126万2千人と、訪日外国人数が出国日本人数を上回った。1月はわずかに出国日本人数が多かったが拮抗しており、15年は年間を通じて訪日客が出国日本人数を上回る可能性もある。
ビジットジャパン事業がスタートする2003年以前は、訪日外国人客数は400―500万人と、出国日本人数の4分の1程度だった。「海外旅行で世界を知り、日本人はもっと国際感覚を持つべき」という大きな流れの一方で、「真の国際化とは多くの外国人を受け入れることである」とも言われていたが、まさに今、事務所のある東京・秋葉原周辺にいると、足元から日本の国際化が進みつつあるのを感じる。
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日本に多くの外国人観光客が訪れることのメリットは大きい。中国人観光客の“爆買い”が注目されているが、当然経済的な利益が見込まれる。日本百貨店協会が発表する2月の外国人観光客の売上高・来店動向では、総売上高が前年同月比236%増と大幅に伸びている。ハイエンドブランドの売れ行きも好調という。
また、多くの外国人観光客の厳しい目に晒され、摩擦が生じることで文化が磨かれ、洗練されていく。パリやロンドン、ニューヨークなども、異邦人が街を歩き、多種多様な文化を持つ人種との軋轢と融合を繰り返しながら、都市は研磨され、魅惑的な“色気”を漂わせていく。
日本の都市や観光地は自国のみに認められるだけで満足せず、世界と比しても十分に通用し、魅力的な存在へと成長してほしいと思う。
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一方で、昨今の観光を巡るメディアの報道の偏りが気になっている。銀座のデパートで大きな買い物袋を下げた“爆買い”のようすなど経済的な利益ばかりにスポットが当たり、さも観光立国は順調に成果を上げつつあるという雰囲気に包まれていることだ。だが、物事には必ず光と影がある。
国が推進する「観光立国」の政策は、インバウンドの拡大だけではない。人口減少時代を迎え、とくに地方部では、定住人口の減少を交流人口の拡大で地域の活性化につなげることを目指している。外国人観光客を増やすことも、もちろん交流人口の拡大に貢献するので、国も一生懸命にインバウンド拡大に力を入れている。けれど、大部分の外国人観光客は、日本人観光客にも人気の観光地や話題のテーマパークを訪れ、定番の大型アウトレットモールでのショッピングなど観光コースも大体決まっている。これが経済・人・モノの一極集中や、地域格差の拡大をさらに助長することにつながっていないだろうか。
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冷静に眺めると、交流人口拡大の土台である日本人の国内宿泊旅行はまったく伸びていない。つまり、宿泊旅行をする環境整備が進んでいないにも関わらず、数字上で分かりやすい外国人観光客の飛躍的な増加ばかりに視点が向かっている現状に、少し違和感を覚えるのだ。
北陸新幹線金沢開業など、ゴールデンウイークの旅行動向も好調のようだ。東京オリンピック開催などで明るいムードに後押しされ、経済界が勢いづいて沸くのはいい。しかし、国が好調なインバウンドを観光政策の成果として声高に強調するほど、ますます届かなくなる地域の声もあることを忘れてはならない。
(編集長・増田 剛)