浜通りの歴史と自然体験 インバウンド対策で視察会 福島県
2023年8月25日(金) 配信
福島県は7月29-31日までの3日間、訪日旅行を取り扱う旅行会社やマスコミ関係者14人を招き、太平洋沿岸部の「浜通り」でモニターツアーを開いた。相馬野馬追見学や松川浦での体験を通じ、当地の歴史や自然を紹介した。
国重要無形民俗文化財「相馬野馬追」は、1000年以上の歴史を誇る、浜通りの夏の風物詩。「生きる侍として伝統を継承している」(南相馬市観光交流課・花岡高行係長)など、唯一無二の魅力で多くの人をひきつける。ハレの日に備え、各自が地元の騎馬隊に属し馬術を鍛錬するほか、馬の世話や甲冑(かっちゅう)、馬具の手入れを行う。そんな日常に支えられた催しだ。
空高く打ち上げられた旗を騎馬武者が奪い合う「神旗(しんき)争奪戦」は、祭りの目玉だ。かつては野馬追の名の通り、騎馬武者が野馬を追い、捕らえた馬を氏神に献じたという。これが神社で見られる「絵馬」のルーツだ。だが明治に入り、政府が軍馬を育てる牧場を廃止。野馬を捕獲・公売したことで「野馬追」ができなくなった。その後始まったのが、現在の「神旗争奪戦」だ。心ひとつに野馬追伝承会の岩橋光善会長は「神旗は野馬に代わるもの。追うのが本当の姿」と話す。
時代に即し、柔軟にカタチを変えてきた「相馬野馬追」。近年は酷暑で人馬への負担が増している。行事を執り行う相馬野馬追執行委員会は現在、騎馬武者として参加した人へのアンケート結果も踏まえ、開催時期の検討に入った。
万葉集にも登場する「松川浦」は、かつては相馬中村藩のリゾート地だった。江戸期前半には5代藩主・相馬昌胤(まさたね)が、12の名勝を選んで絵師に描かせ、新しい名所としての公認を、時の東山天皇に願い出た。朝廷からは許可とともに、12の名勝を題材にした公卿の和歌が贈られた。これが「松川十二景和歌」で、松川浦が広く知られるきっかけとなった。現在は海の景勝地として賑わうほか、漁業やノリの養殖も盛んだ。
地元旅館の若旦那らでつくる「松川浦ガイドの会」(久田浩之会長)は、震災後に途絶えた文化と味を体験できる人気企画「復活の浜焼き」に続けとばかりに、体験メニューのPRや開発に熱心だ。
その1つ、「笹竹釣り」(宿泊者向け企画)は、作って、釣って、食べるまでを体験できる。黒竹の枝をノコギリで払い、先端に釣り糸を結ぶと即席の釣竿が完成。エサの付け方や釣りのポイントも丁寧に教えてくれる。ハゼなど、釣った魚が並ぶ夕食も楽しみだ。竿作りで出た端材は、まとめて海に入れると伝統の「笹浸し漁」になる。エコな側面も魅力だ。
現在、商品化に向け企画を練っているのが、漁船で浦内をめぐる「浦船体験」だ。試乗では、松川浦大橋などの絶景を楽しめたほか、かつて製塩のために使われた岩穴も多数見られた。