「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(152)お客様を知りたい想いから接客は生まれる 「こなす」よりも「知る」
2023年9月18日(月) 配信
初めて訪れた東京のレストランで、テーブル担当スタッフに「あちらのビル群が丸の内ですか」と尋ねました。「そうです。あの高いビルが○○です。その横にある青い光のビルが○○です。高いビルの間にあるのは、東京駅です」。そのときの会話は、大きな感動の時間になりました。
目を凝らすと、間違いなく東京駅が見えました。皇居の暗い樹々の向こうに、オレンジ色の光に照らされた東京駅を見つけたときの感動は、忘れることができません。私がそれほど感動した理由は、東京駅を設計した辰野金吾氏が書いた「東京、はじまる」という小説を、読み終えたばかりだったこともあります。
また、東京駅に隣接する東京ステーションホテルは、私の大好きなホテルのひとつです。最近は宿泊する機会も減っていますが、打ち合わせで利用するときは、スタッフがいつも素敵な笑顔で迎えて、気に掛けてくれます。本当に感謝しかありません。東京駅を眺めながら、ホテルスタッフの笑顔が目に浮かび、思わず感動の声を上げてしまいました。
そのレストランでは、私が到着してからのスタッフの落ち着いた接客が、カッコよくスマートで、店の威厳と格式を感じさせました。そうした雰囲気は、食事機会の内容やご一緒する人たちに、好まれて使われるレストランだろうと想像できます。フレンドリーな雰囲気が好きな私には、正直、ここは合わない店だと感じていたのですが、スタッフとの会話で、一瞬にして心を掴まれたのです。
これまで、「これが私たちの流儀」とばかりにその店のやり方を押し付けるような接客も経験してきました。今回は初めての利用なので、店側は私のことを知りません。初めは迎え入れから飲み物のオーダーなど、雰囲気から探るように接客が始められました。
気軽に質問をするような雰囲気を持っていない店だと思っていたのです。しかし、何気なく顔を上げて店内全体に目をやった時、担当スタッフと目が合ったのです。
そして「今すぐに伺います」といったように笑顔で手を上げて、テーブルにやって来てくれたのです。そして「いかがなさいましたか」と、初めの感じとは少し違った、フレンドリーな笑顔で声を掛けてくれました。私を見ていてくれたといううれしさを感じて、これが冒頭の会話へつながっていったのです。
接客する人にとっては、初めてのお客様とは怖いものです。苦情がこないように教えられた接客を、上手くこなすことに思考が行きがちです。しかし、そのレストランスタッフはそれ以上に私を知ろうと考えて、私に注意を向けてくれたのです。お客様を知りたいと興味を持つことが接客の第一歩なのです。
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。