「観光革命」地球規模の構造的変化(262) ピース・インダストリーへの期待
2023年9月16日(土) 配信
日本ではあまり知られていないが、9月21日は国際連合で定められた記念日「国際平和デー(通称ピースデー)」である。1981年にコスタリカの発案によって国連総会で満場一致で採択された。国際平和デーの目的は、すべての国々と人々の共通の理想である国際平和を推進していくことであった。2002年に国連総会は国際平和デーの取り組みをさらに前進させ、グローバルな停戦と非暴力の日と定め、この日1日は敵対行為を停止するように全世界に呼び掛けている。
いずれにしても、ピースデーは世界中の国々や人々が平和について考え、行動する日である。「世界中から争いがゼロになる日をつくろう」とさまざまな取り組みが行われている。日本でもピースデーには各地でさまざまなイベントが行われる。
例えば、国際平和映像祭は平和を願う世界中の若者が、映像によって互いを知り、国を超えたつながりを持ってほしい、という願いに基づいて、11年から毎年ピースデーに開催されている。この映像祭は5分以内の映像製作を通して、世界中の若者たちが平和について考え、平和実現のために行動していくことが期待されている。
国連はかつて1967年を「国際観光年」に指定し、「観光は平和へのパスポート」というスローガンを定めた。改めて指摘するまでもなく、観光産業は「平和産業(ピース・インダストリー)」と呼ばれており、人々の円滑な相互交流や相互理解を促すことによって、さまざまなかたちで平和の実現に貢献している。
私は業界の動きを詳細に把握できていないが、観光業界は9月21日のピースデーに「国際平和観光祭」などのイベントを行っているのであろうか。もしくは国際平和映像祭に対する支援などを行うのであろうか。
観光産業が本当に「ピース・インダストリー」としての明確な自覚を有しているのであれば、ピースデーのような絶好の機会に積極的に社会的アピールを行うべきであろう。ウクライナでは戦争状態が継続されており、日本を取り巻く東アジアの情勢も軍事的衝突の危険性を秘めている。世界の分断化が進んでいるからこそ、ピース・インダストリーとしての役割を積極的にアピールすることが必要不可欠であろう。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。