ホンダが電動推進船の実証実験 島根県松江市の堀川遊覧船と連携
2023年10月2日(月) 配信
本田技研工業(三部敏宏社長、東京都港区、以下ホンダ)は、開発を進める小型船舶用の電動推進機プロトタイプ(試作品)を用いた実証実験を島根県松江市で行っている。松江城の堀で堀川遊覧船を運航する同市観光振興公社と連携し、実際の船に取り付けた周回運航を今夏から行い、商品化に向け改良を重ねている。
ホンダは2050年にすべての製品と企業活動を通じてカーボンニュートラルを目指すという高い目標を掲げ、二輪や四輪のモビリティにとどまらず、水上でのカーボンニュートラルにも挑戦している。
2021年11月に電動推進機のコンセプトモデルを発表した際、松江市が「堀川遊覧船で使えないか」と手をあげたところ、ホンダ側が反応し今回の実証実験に至った。同市も環境省の脱炭素先行地域に選定され、「カーボンニュートラル観光」を掲げることから、双方の環境への思いは一致している。
堀川遊覧船は1週約3・7㌔を約50分かけてめぐる。国宝に指定される松江城の天守閣や武家屋敷が並ぶ町並みの風情が味わえる人気観光メニューだ。本紙主催の「プロが選ぶ水上観光船30選」では創設した2018年から6年連続でトップ10入りを果たしている。
1997年の開業から船外機はホンダ製ガソリンエンジンを採用し、現在保有する42隻もほぼすべて同社の機種を導入している。
実証実験で使用する電動推進機プロトタイプは、ホンダとトーハツ(日向勇美社長、東京都板橋区)が共同開発した。低騒音・低振動、二酸化炭素排出ゼロ、余裕ある動力性能などが特徴で、バッテリー交換も容易という。仮に堀川遊覧船の全船を電動化した場合、現在のCO2年間総排出量47㌧がゼロになる計算だ。
報道陣や行政関係者を対象にした試乗会は7月下旬から始め、これまで計9回開いた。10月22日(日)、29日(日)には関係者以外に初めて門戸を広げ、松江市民を対象にした無料試乗会を開く予定だ。
電動推進機は船体を改修せずに搭載可能だが、使い勝手をよくするために一部改修を施した。最大の特徴は静粛性だ。ガソリンエンジンでは聞こえづらかった川面の波立つ音や虫の鳴き声など、自然の音がクリアに聞こえる。船頭さんは通常、マイクとスピーカーでガイドを行うが、生声でも可能なほど。試乗会ではこれまで見られなかった乗船客と船頭さんの会話やコミュニケーションが活発に行われたという。
バッテリーは脱着容易なモバイルパワーパックを2本搭載し、満充電の場合、2周は余裕を持って遊覧できるという。ただし、バッテリー1本の重量は約10㌔。脱着自体は容易だが、シニア層が多い船頭さんが船から陸の整備室に引き上げる作業に負荷がかからないようにするのが課題だ。
堀川遊覧船の担当者は「ホンダさんが製品化したあと実際の運用に向け協議することは多い」としたうえで、「静粛性を生かし、貸切船として会合などで利用してもらったり、『読書船』として運航したりと、これまでにない付加価値が提供できる可能性がある」と話す。