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「観光人文学への遡航(40)」 のんのように生きる

2023年10月28日
編集部

2023年10月28日(土) 配信

 NHK―BSプレミアムでは平日毎朝7時15分からかつての朝ドラが再放送されている。この9月までは能年玲奈主演、宮藤官九郎脚本、訓覇圭制作統括で2013年に放映され、大きな話題となった「あまちゃん」が放映されていた。

 

 そのころの私は被災地の復興支援には観光が大いなる役割を果たすとの想いが確信へと変わり、何度も何度も被災地を訪問し、学生や知り合いを連れて行っていた時期である。三陸鉄道の皆さん、久慈の皆さんとも仲良くなり、共に手を携えて観光振興による復興支援に尽力していた。なので、「あまちゃん」を見るたびに現地の風景、現地の人々のことを思い出し、さらに気合いを入れて頑張っていたなと、当時を振り返りながらその再放送を視聴した。

 

 今回は1回も見逃すまいと思って、すべて録画してついに全回コンプリートした。すべて視聴することで、改めて宮藤官九郎の脚本の面白さ、小ネタのぶっこみ方に感嘆した。その宮藤官九郎の小劇場の演劇のごとく縦横無尽にぶっこまれている小ネタを訓覇圭はバレーボールのリベロのごとくすくい上げる。最近は「伏線回収」という言葉が流行っているが、話題になることを狙った伏線回収は最初からしらける。伏線とは、人物造形をドラマが始まる前に丁寧にやっておくプロセスの中から派生的に出るものであって、話題になることばかりを狙った伏線は最初から頭隠して尻隠さずだ。伏線とはそもそも物語に深みを持たせるはずのものが、それを狙うことで余計に物語全体が浅くなっている。宮藤官九郎の伏線は表には出ない人の温かみや相手を想う気持ちに溢れている。変な人もみんな温かい。本放送から10年が経過して、いま再放送がこれだけ話題になるのも、コロナ禍という未曽有の危機を乗り切った今との共通点を多く見出しているからではなかろうか。

 

 放送終了後、能年玲奈は旧所属事務所からの圧力で在京キー局からは締め出され、全国ネットでの露出はなくなってしまったが、それでも岩手に行くたびに地元企業のCMで顔を見ることができて、よかったよかったといつも思っていた。

 

 今回の再放送に寄せた本人のインタビュー記事を見つけた。のんってローマ字で書いたら、nonってニコニコした顔に見えるではないですか、そして、世の中の不条理にはきちんとnonを叩きつけることができる人になりたいということが書かれていた。

 

 正面から戦うばかりの私は、彼女のようにしなやかに生きねばいけないなと大いに反省した。いつもニコニコしながらも、不条理な権力者の軍門には絶対に下らない。権力者からの恫喝と権力者への忖度に溢れた絶望的なこの国で、ニコニコしながらも決して希望を忘れない。

 

 私も残りの人生は、のんのように生きよう。

 

島川 崇 氏

神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏

1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。

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「「観光人文学への遡航(40)」 のんのように生きる」への3件のフィードバック

  1. 島川教授
    初めまして
    震災復興の証、三陸鉄道さんの車両にクラウドファンディングであま絵、のん絵をラッピングして走らせた
    三陸元気!GoGo号の実行員しています、神奈川在住赤ポチと言うものです。
    本文を涙ながらで読ませていただきました。
    ありがとうございます。

  2. 私はのんさんのファンです。
    彼女は今年後半まで一切あまちゃんの事を口に出しませんでした。再放送が始まるころからあまちゃんという言葉を発し始めたと思います。
    レプロと何かしらの取り決めができ解禁されたのかなと思っています。
    ずっと東北との関係を続けながらも自らの環境を利用しない潔さ。
    孫の成長を見守るように、のんさんを応援しています

    今回島川先生が取り上げてくださりとても嬉しいです。

  3. NHKの朝ドラで 「あまちゃん」ほど地域と密着したドラマは見たことがありませんでした。
    出演者たちも のんちゃんに限らず 小泉今日子をはじめ 薬師丸、宮本のぶこ 渡辺えりなど それぞれが ドラマの後 東北と関係を築いて活動をしています。

    マスコミやメディアは あのジャニーズ問題で反省したといいながら、いまだに大手芸能プロダクションとの忖度の中で 番組を作り続けているのが むなしく見えてきます。

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