「観光学部・学科学生をどのように業界へと導くか?」 日本国際観光学会全国大会で議論
2023年11月6日(月) 配信
日本国際観光学会(会長=崎本武志・江戸川大学社会学部教授)は11月4日(土)、白百合女子大学(東京都調布市)で第27回全国大会を開催した。テーマは「観光学部・学科学生をどのように業界へと導くか?」。とくに旅行業界は、「稼げない企業体質」「不祥事を起こす企業風土」といった背景のなか、応募学生数の減少や内定辞退者の増加が見られる。ソリューション事業への傾倒など事業ドメインが転換している現状認識に加え、今後の方向性などを議論した。
□観光業は学生の期待や負託に応えられているか
崎本会長は冒頭、「コロナ禍の影響で、人員不足や観光業界離れが叫ばれている。“アフターコロナ”の今、観光業は学生の期待や負託に応えられているか。観光業界の第一線で活躍されている方々と、観光学部学科の教員、学生が理解を深める機会にしてほしい」と語った。
パネルディスカッションには、藤島喜代仁氏(浦和大学社会学部教授)と、青木昌城氏(ホスピタリティコーチングサービス代表チーフコーチ)、神田達哉氏(サービス連合情報総研業務執行理事)が登壇。コーディネーターは矢嶋敏朗氏(日本大学国際関係学部准教授)が務めた。
矢嶋氏は「観光学部学科に学生が集まりにくくなっている。5年、10年、30年後の旅行業、宿泊業を予測することは難しいが、今就職する学生は30~40年働くことになる」と討論の口火を切った。「多くの学生は『出口』を求めて大学に入ってきていることも事実。ワークライフバランスへの意識も高まっている。旅行業界はパラダイムシフトの最中にあり、大きく変わる業界の未来を考えられる学生を送り出す使命もある」と述べ、議論に入った。
日本航空(JAL)出身で客室訓練センター長を務めた経験を持つ藤島氏は、ビジネス需要回復の遅れによるイールド(運賃単価)の低下や、薄利多売的な状況のなか、イベントリスクの再来を想定した危機感が漂うなど、航空業界を取り巻く環境を説明した。
航空業界を目指す学生に向けては、「経営に参画する総合職に近い感覚、つまり当事者意識や行動、対応などがより求められる」と最近のトレンドを語り、「希望するCA(キャビンアテンダント)としてではなく、組織やチームで働く『航空会社の社員としての価値』をアピールする必要がある」と強調した。
帝国ホテル出身の青木氏は学生に向けて「『会社から選ばれる』ではなく、『自分が選ぶ』という発想を」と助言した。企業に対しては「学生を選んでいるという感覚では、先はない。『他人の人生を預かる』気概を持って、『学生に選ばれる企業』を目指してほしい」と力を込めた。
神田氏は大手旅行会社へのインタビュー調査などの結果を踏まえ、ソリューション事業への傾倒や、「旅」に関与するタスクの減少など、事業ドメインの転換が著しい大手旅行会社に対し、「事業ドメイン戦略・戦術の明確化」を求めた。
学生には、オフラインの意志疎通が拙劣で、自覚無き常識不足が引き起こす人間関係の崩壊など、明らかなコミュニケーション不足を指摘。そのうえで、教員には業界動向や各社ポートフォリオの周知による「就業・就社目的とのマッチング、社会人基礎力の習熟が必要」と述べた。