「観光革命」地球規模の構造的変化(264) 水族館・動物園の頑張り
2023年11月13日(月) 配信
かつて動物園や水族館は動物を見世物(珍しい物や芸を有料で見せる)として扱うなど娯楽の要素が強かった。世界動物園水族館協会(WAZA)は2005年に、野生生物の保全のために動物園・水族館が果たすべき保全戦略を公表。気候変動や自然開発や外来種の影響などで毎年4万種の生き物が絶滅しており、生物多様性は危機的状況にある。WAZAは世界中の動物園・水族館に生物多様性の保全に向けての貢献を求めている。
北海道小樽市の「おたる水族館」はいまバンドウイルカの繁殖に取り組んでいる。同館の5頭のイルカはすべて和歌山県・太地町の追い込み漁で捕獲されている。日本動物園水族館協会は15年に追い込み漁で捕獲されたイルカの購入自粛を決定した。
そのため同館でも飼育しているオス3頭、メス2頭の生活環境を調えて繁殖に挑戦している。幸いメス1頭の妊娠が確認され、来夏には道内で初の水族館での出産が実現できそうだ。赤ちゃんイルカが誕生すれば、ファミリーでの多数の入館が期待できる。
札幌市円山動物園では15年にマレーグマが誤った飼育方法で死ぬなどの飼育動物の事故が相次ぎ、動物園改革に着手。札幌市は昨年、良好な動物福祉の確保と生物多様性の保全を基本理念に掲げた動物園条例を制定。動物福祉への関心の高まり、生物多様性の危機的状況、動物園の社会的役割の変化などを踏まえた全国初の先進的動物園条例の制定だ。
同園は18年にミャンマーから4頭のアジアゾウの寄贈を受け、準間接飼育用の新しい動物本位のゾウ舎を建設。動物のストレス軽減のために飼育員が柵越しに健康管理を行うシステムの導入だ。
動物本位の飼育で繁殖を目指す環境を整えたところ、幸い雌ゾウが今年8月に赤ちゃん(雌、愛称タオ:ミャンマー語で「輝き」)を無事出産。9月中旬に親子を公開し、数多くの市民がゾウ舎前に並んで大人気を博している。動物園は単なる動物の見世物的施設ではなく、飼育動物の福祉に配慮すると共に、種の保全活動や野生生物保全教育などの面でも社会的責任を果たすことが期待されている。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。